第 30話 ジェシカとワイス
子供達は勢いよく保健室の戸を開けて、嬉しそうにアンナの所へ駆け寄ってくる。
手にはルリ(紙)を大事そうに持って。
「しっ、静かにしなさい。アンナ先生は気分が悪くてここに来たのよ。私の言うことが聞けないようだったら、今日は教室に戻ってもらいますからね」きりっとした口調である。
「わっ、わかったよ」口をとんがらせて、ワイスは言う。
「アンナ先生ごめんなさい。静かにします」ジェシカも、しゅんとしている。
「わかったならいいわ。じゃあ、あなた達の作品を見せてあげたら」
(流石に先生ね。外見は、シグナにそっくりだけど。威厳があるわ)
「僕から行くよ」持ちやすく丸めたルリを伸ばしながら広げる。
「こ‥‥れ、すごい!本当にあなたが描いたの?」
目の前の絵は、母と子が嬉しそうに微笑んでいる場面であった。その上に目の輪郭が大きく描かれていて、その中はフィルターが掛かっているかのように薄ーく不透明になっている。その目の内と外の色目の表現と言い、この目の前の小さな男の子が描いたとは思えない。
「す、ばらしいわ。幸せそうな親子と、それを見ている第三者もきっと幸せなのね。微笑ましい作品だわ。おめでとう」アンナは正直に感想を述べた。
「えへへこれはね。俺は他のを提出するつもりでいたんだけど‥姉ちゃんと母ちゃんがこれがいいって言うから‥‥」照れたように、ワイスはいう。
「次は、私ね」とジェシカ。
「こ、これも……すごいわ」
ジェシカの絵は、火の鳥が他の鳥を空中で追いかけるようにしている絵であった。
生き物がいない現在、これは丸で本当に実在するかのように生々しく描かれている。火の鳥の周りから発する火の温度まで伝わってくるようなグラデーションによる色分け。そして、火の鳥の前にいる鳥の必死に逃げ回っている形相や、所々やけどで皮が爛れている様子がリアルに表現されていた。
「鳥は、本で見たことがあるけど‥こんなに、リアルな表現方法は初めてみるわよ。あなた達は本当に天才ね。おめでとう」アンナは目の前で笑っているこの子達の印象が、すっかり変わっていくのがわかった。
「え、へへ」
「ふふふ、一か月かかったのよ」と、ジェシカ。
「すごいでしょう。本当に絵のことに関しては天才なのよね。でも‥三教科は、言わなくてもわかるでしょ?」ホシカ先生は、少し睨むようにして二人に視線を移す。
それから楽しそうにアンナ先生と話す、ジェシカとワイスを嬉しそうにみつめていた。
(珍しいわね、この子たちが大人とこんなに楽しそうに話しているなんて…。この子達に限らずいろんな分野の上位入賞者たちは、大人を冷めた目で見ている子が多いから。無理もないわよね。今まで下流地区民として虐げられてきたのに、上位入賞してからは急に周りの大人たちがチヤホヤしだすようになってきたんだから)
「アンナ先生は、次の授業に出るの?」とワイス。
「そうね。もう今日は最後の授業だから、挨拶がてら顔を出そうかな。ホシカ先生やジェシカとワイスのおかげでもう大丈夫だから」アンナ先生は、にこやかに微笑んだ。




