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山中に広がる波紋 第1話

 ――高度35000フィート。

 巡航に入った機内は、ひどく静かだった。

 千歳発伊丹行、All Japan Air136便。

 コックピットでは、計器の表示とエンジン音だけが淡々と流れている。

「順調だな」

 機長がそう言った直後だった。

 ――ザッ。

 ヘッドセットに、明らかに“異物”が混じった。

「……今、何か入りませんでした?」

 副操縦士が、眉をひそめる。

「入ったな」

 機長は即答した。

 しかも、聞き慣れたノイズではない。

 ――ザザッ、ピッ……ピッ……

 断続的で、周波数が揺れる。

 しかも――

「121.5(ワンツーワンファイブ)だ」

 非常通信用周波数。

 コックピットの空気が、一段階引き締まる。

 121.5MHz。

 航空機が常時モニターする、国際的な非常周波数だ。

 本来、雑音が乗ること自体が、あってはならない。

「機器トラブル?」

「いや……」

 機長は、首を振った。

「うちのじゃない。外からだ」

 位置は、ほぼ真下。

「現在位置確認」

「木曽町上空通過中です」

 副操縦士が即座に応じる。

 山岳地帯。

 人口密集地ではない。

 それでも、121.5に“意図しない信号”が入る理由は、ひとつも思い当たらない。

 ノイズは、消えない。

 弱く、しかし確実に、続いている。

「……念のため、管制に上げる」

 機長は、切り替えスイッチに手を伸ばした。

「TOKYO Control、こちらAll Japan Air136。非常周波数121.5に、断続的なノイズを確認。現在、木曽町上空」

 一瞬の沈黙。

 その沈黙が、逆に嫌な予感を増幅させる。

『All Japan Air136便、TOKYO Control。再度確認願います。非常周波数121.5にノイズとのことですが、現在も継続中ですか』

「All Japan Air136です。現在消失していますが、発生時にチェクしましたが、こちらの機器由来ではありません」

 機長は、淡々と答えた。

『了解。現在、同様の報告は他便からは入っていません』

 副操縦士が、視線を上げる。

「単独……?」

 それは、あまり良くない。

『当方で調査します。引き続きモニターをお願いします』

「了解」

 通信が切れる。

 コックピットの窓の向こうには、

 冬の木曽の山々が、何事もなかったかのように横たわっていた。

 だがこの瞬間、

 確かに――

 空のどこかで、電波が乱れている。

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