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有閑閑話 『昼行灯とバカの一つ覚え』

昼休みの事務室は、いつもより少し空気が重かった。

 テレビは消えているが、さっきまで流れていたニュースの余韻だけが残っている。

 戸隠弘明は椅子に深く腰掛け、紙コップのコーヒーをすすっていた。

 相変わらず、眠たそうな目だ。

 そこへ、島見杏果がタブレット端末を片手に戻ってくる。

「戸隠さん、これ……」

 差し出された画面には、全国紙の電子版記事が表示されていた。

「総務省職員、酒に酔い女性に抱きつき警察官を殴打――現行犯逮捕、です」

 戸隠はちらりと画面を見る。

「別の管区の総合通信局みたいです。

 まだ若手で……飲み会の帰りだそうです」

「ふうん」

 それだけ言って、戸隠は視線を逸らした。

「こういうのが出ると、また来ますよね」

 島見は言葉を選びながら続ける。

「注意喚起とか、服務規律の徹底とか……」

 戸隠は、鼻で小さく笑った。

「来るさ」

 そして、ぽつりと吐き捨てるように言う。

「お歴々からは、また綱紀粛正とバカの一つ覚えのように出るのさ」

 島見は一瞬、言葉を失った。

「……厳しいですね」

「厳しい? いや、雑だ」

 戸隠はコーヒーを机に置いた。

「飲んで暴れた若造が一人。

 それで全国の職員が、首根っこ押さえられる」

「でも、公務員ですし……」

「だから、だ」

 戸隠は立ち上がり、窓の方へ歩く。

「信用は、まとめて管理される。

 個人の不始末でも、組織全体の話になる」

 島見は画面を見つめたまま、静かに言った。

「……それで、本当に良くなるんでしょうか」

「ならん」

 即答だった。

「だが、やった気にはなる。

 上はそれで十分だ」

 少し間が空く。

 島見は、ふと思い切ったように尋ねた。

「戸隠さんも……そういうの、見てきたんですよね」

「さぁな」

 また、その返事。

「昼行灯は、ぼんやり灯るだけだからな」

 戸隠は踵を返し、席を離れる。

「切れるべきは、別のところだ。

 だが、そこは誰も触らん」

 事務室のドアが閉まる。

 島見は一人残され、タブレットを伏せた。

「……それでも、現場は回るしかない、か」

 誰にともなく呟いたその言葉に、答える者はいなかった。

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