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昼行灯電波監視官のしょーもない年末年始 第4話『1月3日編 昼行灯電波監視官…倒れる』

 年が明けて三日。

 寒波はようやく峠を越えた……らしいが、長野市の体感は相変わらず“冷凍庫のなか”。最低気温は氷点下五度、最高気温は二度の予報。それを“緩んだ”と表現する気象庁に、戸隠弘明は軽く文句を言いたい気持ちになる。


「緩んでねえよ……ただの“解凍モード”だろ……」


 室内の温度計は七度。

 コタツの外は普通に寒い。

 しかし灯油だけは、昨日“豚三ぶたさん”で調達したぶんでなんとか確保できている。


 問題は――食料。


 冷蔵庫を開けると、中は“戦時中の記憶か?”というレベルの貧弱さ。もやし、卵一つ、シワの寄った白菜、賞味期限切れの納豆。


「……これを正月三日に見るとは思わなかった」


 今日も徒歩五分の食品スーパー『デリシャス』へ行くしかない。

 灯油の心配が解消されたぶん、食べ物だけでも確保しなければ。


 足元では、ネコ型AIロボットのNyaicoが丸くなっている。


「留守番してろよ。お前、寒いの苦手だし」


「ニャア(了解かどうかは曖昧)」


 AIのくせに基本的には“何もしない”。

 というか、ほぼ猫。

 昨日の福引きで当てたとはいえ、知能ロボットとしての福利はほぼゼロ。可愛いのだけが取り柄である。



 冷えた外を五分歩き、デリシャスに到着。

 店の中は天国だった。


 正月三日で多少混んでいるものの、棚はそこそこ埋まっている。

 カップ麺、冷凍うどん、卵、白菜、豆腐、豚小間などを買い物カゴへ。


 会計は二千六百円。

 小銭袋から正確に支払う。


「……まだ大丈夫。あと5千円はある」


 問題はない――はずだった。


 帰り道、少しふらつく。

 だが戸隠は立て直した。

 買った食料が入った袋を両手で抱え、家まで急ぎ足で戻る。



 家が見えた時、少し安心した。


「あともうちょい……」


 玄関前には、昨夜から溶け残っていた薄い氷がきらりと光っている。

 レジ袋の重みが腕にずっしりと残り、肩と腰に疲労が蓄積しているのが分かる。


 玄関ドアを開けた瞬間――

 ふわっと暖かい空気が迎えてくれた。


「……助かった……」


 靴を脱ぎ、買い物袋を置こうと前屈みになった、その時だった。


 ――視界が急に暗くなる。

 ――足が床を捉えなくなる。

 ――体が前へ倒れかける。


「……あれ……?」


 立ちくらみ。

 低血糖。

 寒さによる疲労。

 それらが一気に押し寄せてきた。


 バランスを崩した拍子に、買い物袋が床に落ちた。

 卵のパックが転がる音がコツンと響く。


 戸隠は玄関マットに崩れ落ち、そのまま横たわった。


 意識が遠のく直前、コタツの布団がわずかに揺れた。

 中から、のそのそとNyaicoが姿を現した。


「……ニャ……?」


 Nyaicoは戸隠に近づき、鼻先でつん、と触れた。


「……Nya……」


 それは、AIらしい警告でも、救助シグナルでもなかった。

 ただの、心配そうな猫の鳴き声だった。


 けれど――

 その声だけが、かろうじて戸隠の意識の端に届いた。


(……ああ……Nyaico……)


 そのまま彼は、ゆっくりと暗闇に沈んでいった。

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