電波と焼肉と、カーブの先で 3「焼肉と夜風と、ささやかな反省会」
さて、ツアー・オブ・ジャパンは連戦のため、こんな感じに打ち上げをすることは今の所はないですが、リニアで30分くらいならこんな風景もあるのかもね…。
第三編「焼肉と夜風と、ささやかな反省会」
大会が無事に終了し、飯田の町も夕闇に包まれていた。
戸隠と榊は、地元でも評判の焼肉店「牛兵衛」のテーブル席に腰を下ろしていた。煙の立ち込める賑やかな店内。どのテーブルにもレース関係者らしき顔ぶれが見える。
「やっぱ飯田は焼肉っすね。タレがちょっと甘めなのも、長野の中でもこの辺ならではって感じで」
坂城はもみじカルビを炭火の網に載せながら語る。
「地元の人は、家よりも外で焼くって言ってたな。道理で沿道のバーベキュー、みんな手慣れてた」
戸隠が湯呑みを手に取り、目を細める。ふと、隣のテーブルから笑い声が聞こえた。
「実況、今年も見事でしたね」
「いやいや、焼肉の煙に声がやられそうでしたけど、何とか」
振り向けば、野嶋裕史がワイシャツの袖をまくり、グラスを手に関係者たちと談笑していた。短く目が合い、戸隠が軽く会釈すると、野嶋も少し驚いたようにうなずき返した。
「おや、そちらは……」と、同じく立ち上がったスーツ姿の男がいた。
栗山修、ツアー・オブ・ジャパンの実行委員長。
「今日は見えないところでのご尽力、ありがとうございました。長野総通の……?」
「ええ、戸隠です。あくまで予防的な派遣ですが、現場が混乱しないのが一番ですので」
「裏方同士、通じますね」と、栗村は笑ってグラスを掲げた。
軽く乾杯のしぐさだけ交わし、二人はテーブルに戻る。は
「……すごい人たちと、同じ煙吸って焼肉食ってるんすね、俺ら」
名立が小声で言った。
「昼行灯だから、煙は慣れてる」
「いやそれ、意味わかんないっすけど」
網の上ではわもみじカルビが音を立て、煙がふわりと上がる。
「ま、今日はこれでいいさ。何も起きなかった、それが一番の成果だ」
「明日は雨みたいですし、帰る前に殿岡の温泉施設にでも寄りましょうか」
「悪くないな……あ、野嶋さんがもう一皿頼んでるぞ。うちも追加しとくか・・・クマでもいくか?」
焼肉の煙とともに、静かな満足感が夜風に流れていった。