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電波と焼肉と、カーブの先で 2「カーブの先に」

いよいよレース当日。

実際の南信州ステージも周回コースなので、同じ場所で何度もトップ選手の走りを見ることができるようです。

第二編「カーブの先に」

レース当日、午前9時。

飯田市立下久堅小学校前には、すでに観客が集まりはじめ、沿道には折りたたみ椅子、パラソル、焼肉セット、地元の手作り弁当といった“南信州スタイル”の応援風景が広がっていた。

「……いやぁ、あの煙の中でレースとか、正気の沙汰じゃないですね」

DEURAS-M6の助手席から、名立が笑いながら言う。前方には、車体天井に設置された方位測定表示が、ゆっくりと旋回していた。

「観客の熱気と肉の煙で、選手も機材もあったまってるんだろう」

戸隠は、後部座席の端末を睨みながらぼそりとつぶやく。

VHF帯に乗った微弱な信号が、また入ってきていた。昨日と同じ周波数。だが、位置が違う。どうやら移動しながら送信しているらしい。

「……山越えで追い越し禁止区間に入るタイミングで、競技用インカムが一瞬乱れたって報告がありました。これはマズいですね」

坂城が顔をしかめる。

「何より危険なのは、選手の生命だ」

戸隠が真顔で言った。


レース2周目──観戦エリア・焼肉ストリート付近

実況ブースでは、野嶋が熱のこもった語り口で観客を盛り上げていた。

「さあ、2周目の中盤に差し掛かりました! 飯田特有の短く鋭い登りを越え──おっと、ここでチーム〇〇の選手が一時停止! どうした!? 通信トラブルか!?」

「……来たな」

戸隠がうなる。

同時にDEURASの方位測定装置が、観客が密集するカーブ手前の焼肉エリアを指し示した。

坂城が操作端末を叩く。「方向確定! 広帯域受信器に切り替えます……キャリア波検出、デジタル変調、これ──欧州のトランシーバだ!」

「海外チームの持ち込み品……」

「ですが、これは日本国内では使用許可が出てません! 違法です!」


焼肉と煙と違法電波の中で

戸隠は、ヘッドセットで長野局本部と連携を取りながら、マイクを通じて短く指示した。

「焼肉の煙の中に、獣が潜んでる。囲い込め」

飯田警察署の署員たちは、あらかじめ配置された監視チームと連携し、問題のトランシーバを使用していた外国チームのサポートバンに接触。事情聴取と機材確認が始まった。

「──いや、これは母国で使っていた無線機でして、日本ではダメとは……」

「国際大会であっても、日本国内での使用には日本の法令が適用されます。知らなかったでは済まされません」

坂城の口調は、普段より少しだけ厳しかった。


昼下がり──ゴール地点にて

レースは無事終了した。通信障害の原因は違法トランシーバによるものであり、運営委員会側も対応の甘さを反省したという。

栗山は、戸隠たちに深く頭を下げた。

「選手を守ってくれて、ありがとうございます」

戸隠は少しだけうなずいた。

「選手の命も、電波の秩序も、どちらも崩れれば“レース”にならんのでね」

その言葉を聞き、坂城は密かに思った。

この人は、口数は少ないが、やるときはやる。

そして観客たちは、まだ沿道で焼肉を楽しんでいた。

午後の南信州の空には、煙がゆるやかに漂っていた。


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