昼行灯電波監視官とアイドルと 第4話 「一日局長の締めくくり」
夕方、長野市・朝日町庁舎。
取材を終えて戻った一行は、会議室で最後のまとめをしていた。
机の上には防災無線の系統図、今日撮影した映像のサンプル、そしてお菓子の皿。
なぜかお菓子の袋を開けているのは――新津課長だった。
「……いやぁ、しかし取材ってのは疲れるな」
課長がぼやく。
「こっちは人数13人で、日々の申告処理と監視で手一杯なんだ。なのに『人を増やせ』って言うのは簡単だが……その人数を決めたのは国民が選んだ政治屋連中なんだからなぁ」
課長の愚痴に、戸隠は肩をすくめる。
「課長、カメラ回ってますよ」
「……えっ、今も!?」
「はい、もちろん」
越後テレビのスタッフがにやりと笑った。
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一方、大山みさきは隣で島見と話し込んでいた。
「まさか杏果ちゃんが通信局で働いてるなんて、本当にびっくりしたよ!」
「私の方こそ、みさきが一日局長に来るなんて思わなかった……」
二人が笑い合う様子に、名立がそわそわ近寄る。
「えっ……えっ……ツーショットいいっすか!? 俺、ドッペル坂16ずっと推してて……」
「え、ほんとに!?」
みさきが驚いた顔をすると、名立は耳まで真っ赤になる。
「し、CDは全部買いました! あの握手会も……」
「やっぱり!」
島見が吹き出す。
「だからさっきからやたらテンション高かったんだね」
戸隠は横目で一言。
「仕事より顔が赤いの、初めて見たな」
「ち、違いますって!」
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そんなドタバタをよそに、課長が締めに入った。
「まぁ、今日のところは大事に至らず済んでよかった。防災無線の障害は一歩間違えば人命に関わる。だけど、我々はそれを未然に防ぐのが仕事だ」
真剣な声に、一同が静かにうなずく。
「……大山さん、いい経験になったかな?」
課長が尋ねると、みさきはきっぱりと答えた。
「はい! 電波監視の仕事がこんなに大切だなんて知りませんでした。
テレビを通じて、視聴者のみなさんにも伝わると思います」
取材が終わり、県庁通りの街灯がオレンジ色に灯っていた。
庁舎を背に、大山みさきは少し名残惜しそうに振り返る。
「みんな、今日は本当にありがとう! これからも頑張ってね!」
島見が手を振り、名立は必死に笑顔を作り、戸隠はいつも通り無表情。
だがその目は、どこか誇らしげでもあった。
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タレントカーに戻る途中、みさきがふと足を止める。
「……ねえ、小川さん」
声をかけられたのは、敏腕で知られる女性マネージャーの小川だ。
「今日、せっかくだから……杏果ともう少し一緒に過ごしたいな」
島見が驚いた顔をする。
「えっ、でもスケジュールが……」
小川はスマホを取り出して手帳アプリを確認する。
「……ふむ。明日の仕事は、15時までに東京・麹町の首都テレビに入れば大丈夫ね」
「じゃあ、今夜は……!」
みさきの顔が一気に明るくなった。
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そのやり取りを見ていた戸隠が、ぼそっと島見に言う。
「明日お前も年次休暇、取ればいいだろ」
「えっ、でも……」
「課長に言っておく。どうせ人は足りてないが、一人二人抜けても回していくのがこの局だ」
島見は思わず吹き出した。
「それ、フォローなのか嫌味なのか分かりません!」
そんな二人のやり取りに、名立がにやにやしながら口を挟む。
「おおっと、これはプライベート回に突入かぁ? アイドルと親友の再会スペシャル!」
「うるさい!」
島見が真っ赤になって名立を小突き、みさきは楽しそうに笑った。
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秋風が吹く昭和通りの夜。
「一日局長」の大騒動はこうして幕を下ろし、もうひとつの物語――島見とみさきの再会篇へと続いていくのだった。




