昼行灯電波監視官とアイドルと 第3話 「ターキーコミュニケーション」
2025年夏アニメに『Turkey!』という作品がありましたが…(以下略)
DEURAS-M6から降り立った戸隠たちは、千曲市の小さな事務所ビルを見上げた。
看板には「ターキーコミュニケーション」とある。地域の通信機販売会社だ。
「まさか通信機屋さんが原因とはねぇ」
名立が首をひねる。
「どこの世界にもあるんだよ。**“配線しっぱなしでスイッチオン”**ってやつが」
戸隠が肩をすくめた。
その横で大山みさきは、しっかり4Kカメラを構えていた。
「えっと……今のをもう一度、テレビ用に言っていただけますか?」
「……言わん」
「えぇーっ!」
背後で島見が笑いをこらえて肩を震わせる。
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中に入ると、応対に出たのは保守作業員らしき若い男性。
「すみません、長野総合通信局の者ですが……」
戸隠が身分証を示す。
「あ、あの、何か……」
「はい。こちらのアンテナから、防災無線に混信する電波が出てるんです」
男は一瞬固まり、慌てて機器の置かれた部屋へ案内した。
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そこには、ラックに並ぶ無線機と、繋がれたアンテナケーブル。
しかも稼働中の機械のディスプレイには――「埼玉県**市 防災無線機調整モード」と表示されていた。
「……やっぱりな」
戸隠が低く呟く。
「え、えっと……遠隔でチェックしようと思って……アンテナ繋いだまま動かしてました」
作業員がしどろもどろに説明する。
「そのまま電波出たらどうなるか、考えなかった?」
戸隠の声が少しだけ鋭くなる。
横で島見が補足する。
「防災無線って、住民の避難情報や災害情報を流す重要な通信なんです。障害が起きると、本当に危ないんですよ」
「す、すみません……」
作業員は青ざめた顔で頭を下げる。
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その一部始終を、大山みさきのカメラがしっかり捉えていた。
「なるほど……これが“人災”ってやつですね」
彼女は思わず口にする。
「そういうことだ。ちょっとした油断で、何万人もの命綱が切れる」
戸隠が真顔で言い、取材スタッフの空気が一瞬張りつめる。
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だが、すかさず名立が割り込んだ。
「でもでも! それを未然に見つけるのが俺たち電波監視官の仕事です!」
決めポーズのように親指を立てる名立に、戸隠は無言で額を押さえる。
「お前、絶対アイドルの前だから調子乗ってるだろ」
「えっ!? い、いや、そんなことないですって!」
島見がくすっと笑い、大山も思わず吹き出した。
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その時、建物の外から声が響く。
「戸隠ー! どうだー!」
新津課長だった。取材車の横から手を振っている。
「原因は判明しました。アンテナ繋いだまま調整してたんです」
「……やれやれ。これだから民間任せは怖い」
課長のぼやきを、大山はカメラに収める。
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調査は終わった。作業員には強く注意し、社としても再発防止策を取ることを約束させた。
外に出ると、夕暮れの千曲川が鈍い光を放っていた。
「取材映像、すごくいいものが撮れました!」
大山が嬉しそうに言うと、名立は誇らしげに胸を張った。
「でしょ? 電波監視課、かっこいいでしょ?」
「うん、杏果ちゃんもすごく頼もしかった!」
そう言われて、島見は顔を真っ赤にした。
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助手席に戻った戸隠は、ため息をひとつ。
「……テレビ的にはこれで十分だろ」
エンジンがかかり、DEURAS-M6は再び庁舎へと戻っていくのだった。




