昼行灯電波監視官とアイドルと 第2話 「DEURAS-M6、発進!」
庁舎の駐車場に停まっていたのは、一見すると高級感のあるシルバーのミニバン。
しかし中身は電波監視の“切り札”とも言える不法無線局探索車両――DEURAS-M6だった。
外から見ればただの高級なミニバンだが、車内にはモニター、スペクトラムアナライザ、録画装置、電波方位測定システム(DEURAS)のセンターコンポーネントなど最新の機器が所狭しと並ぶ。定員は運転席と助手席、それに後部座席の二人分だけ。
「わぁ……これ、まるで秘密基地ですね!」
大山みさきが、4Kカメラを抱えながら後部座席に腰を下ろす。隣には親友の島見杏果。狭い車内は、もうすでに熱気でいっぱいだった。
「運転は俺がやります! 任せてください!」
名立が胸を張り、エンジンをかける。
「いや、そんなに張り切らなくても……」
助手席の戸隠がぼそりと突っ込む。
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「じゃあ、島見。説明はお前に任せる」
戸隠が振り返ると、島見は「えっ、私がですか!?」と目を丸くした。
「親友の前で格好いいとこ見せとけ。噛むなよ」
「か、噛みません!」
島見は真っ赤になりながらも、モニターを指差して大山に解説を始めた。
「これがスペクトラムアナライザです。防災無線の周波数帯を観測していて、普段は綺麗に平らなんですけど……」
「わっ、波が揺れてる!」
「そうです。これがノイズ。外部から何か変な電波が入り込んでる証拠です。そして、このパソコンの画面には長野市周辺にある無人の電波方位測定センサ局とこの車の位置と電波方位測定結果から導き出された電波発射予測位置がこの辺になります。」
「なるほど! すごく分かりやすい!」
大山は楽しそうに頷き、カメラを回し続ける。
「ふふ……杏果ちゃん、こんなに堂々と説明してるの、初めて見ました」
「み、みさき、やめてください!」
島見は照れくさそうに顔を覆う。
「青春だなぁ」
助手席の戸隠がぼそりと呟き、名立が「いやいや、アイドル取材って最高だな!」と声を弾ませた。
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車は長野市街を抜け、千曲市方面へ。
計測モニターに波が大きく振れるたび、島見の声が高まる。
「きました! 電波が強くなってます!」
「ふむ、絞り込めるな」
戸隠が頷く。
「つまりこれは、“ステージ裏でマイクを入れっぱなしにして歌っちゃってる”みたいなものです!」
名立がまた妙な例えを口にする。
「……余計に分かりにくい」
戸隠が冷たく突っ込み、大山は思わず吹き出した。
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やがて、モニターが最大値を示した。
「ここです!」
島見が叫ぶ。
窓の外に見えてきたのは、二階建ての事務所ビル。屋上にはアンテナがそびえ、社名プレートには―『ターキーコミュニケーション』とあった。
「えっ、通信機の会社が原因……ですか?」
大山のカメラが建物を捉える。
「あり得るな。アンテナを繋いだまま調整してるのかもしれん」
戸隠が静かに答える。
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その時、後方から追走していた越後テレビの取材車が追いつき、窓から新津課長が顔を出した。
「おい戸隠! ここで間違いないか!」
「ええ、ほぼ確定です」
「……分かった。映してもらうぞ!」
課長の声に、大山は「はい!」と応じ、再びカメラを構えた。
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DEURAS-M6は建物前に停車。
ドアが開き、戸隠が地面に降り立つ。
「さて……原因は、すぐそこだ」
名立と島見が緊張した面持ちで続き、カメラを抱えた大山も一歩を踏み出すのだった。




