AirPortEmergency 第2話「ひまわりタクシーの蜂の巣」
新潟市東区・逢谷内。のどかな住宅街の一角に、黄色い看板を掲げた「ひまわりタクシー」の本社はあった。
戸隠と名立が到着すると、すでに社長以下、複数の運転手が玄関先に集まってざわついている。
「通信局から来たって? いやだなぁ、うちが空港に迷惑かけてるなんて!」
「でもよ、確かに空港ロータリーに入るときだけって言ってたろ? 俺らしか出入りしてねぇじゃん」
「電波で怒られるとか、初めて聞いたぞ……」
蜂の巣をつついたような騒ぎ。
名立は気圧されつつも胸を張って、「本日、調査に伺いました!」と声を張り上げる。
「ご協力をお願いします。我々としては、あくまで原因を確認したいだけで――」
戸隠が淡々と付け足すと、運転手たちは一斉に彼を凝視する。まるで「この人が一番怖そう」と判断したように、急に静かになった。
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車庫の中に並ぶタクシーを前に、測定器をセット。
戸隠は一台一台、エンジンをかけさせ、電波の挙動をチェックしていった。
「……ほら! またノイズが」
名立が指差す。測定器のグラフに、ちょうど空港で聞いたのと同じ雑音が走った。
「何台目だ?」
「これで五台目です」
いずれも、同じように運転席のカーステレオに小さな機器が差し込まれている。
名立が首をかしげる。
「これ……BluetoothのFMトランスミッター? スマホの音楽をFMで飛ばしてラジオで聞けるやつっすよね」
運転手の一人が照れ笑いを浮かべて言った。
「いやぁ、ラジオしかない会社の車で、客待ちの暇つぶしに…って、娘が買ってくれたんだよ。便利だし、音も良いし……」
「便利は便利ですが……」
戸隠は本体を手に取り、じっと観察する。外装は安っぽいプラスチック。ブランド名も聞いたことがない。
「型番は……消えてるな。シールも貼ってない」
名立が苦笑した。
「これ、怪しい中華製っすね。通販で千円ぐらいで買えるやつ」
「その“千円”のために、飛行機の安全が脅かされるのか」
戸隠がぼそりとつぶやくと、運転手たちは一斉に青ざめた。
誰かが「やべえ……」と呟き、別の誰かが「これニュースになるんじゃ……」と小声で騒ぎ出す。
「落ち着け。まだ確定ではない」
戸隠は冷静に言ったが、運転手たちの狼狽は収まらない。
名立は慌てて「いやいや、皆さん悪気があってやったわけじゃないですし!」とフォローする。
「ただ、こういうケース、メーカー責任も大きいんです。通信局としては、皆さんに事情を確認した上で、正式に報告を上げますから」
その言葉に、ようやく空気が少し和らいだ。
しかし、戸隠の目はスペアナの画面に向いたままだった。
「……どうやら、こいつが“犯人”で間違いないな」
静かな断言に、名立も運転手たちも黙り込む。
小さな機器ひとつが、大空を飛ぶ機材に影を落とす――その事実の重みだけが、場にのしかかった。




