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大積峠レジャーホテルの謎 第3話「技術オバケ」

 長岡での現地調査を終えた戸隠たちは、分厚い報告書をまとめ上げた。

 峠を駆け抜けるダンプのレーダー探知機が、衛星放送用周波数を含む10GHz帯にノイズを撒き散らしている。

 その証拠となる波形ログと写真を整理して、東京総合通信局の分析課へ送付する。


「……ここまで分かれば、あとは“技術オバケ”の出番だな」

 名立が言うと、島見が笑った。

「オバケ呼ばわりは失礼ですよ。あの人たち、本当に化け物みたいに細かいんですから」


 戸隠は腕を組み、目を閉じた。

「失礼じゃない。誉め言葉だろ。俺らの測定器じゃ、どうにもできない領域を平然と切り開く連中だ」



---


 数日後。

 東京の分析課から、驚くべき報告が上がってきた。


『全国的に同様の障害が発生していたが、糸口を掴めず困っていた。

 長野局の調査で、このレーダー探知機に焦点を絞ることができた』


 戸隠は報告メールを読んで、静かに息を吐いた。

「やっぱり、俺たちの地域だけじゃなかったか……」


「全国で……ってことは、影響範囲が洒落にならないですね」

 島見の声が重くなる。



---


 分析課は即座に該当製品を入手した。

 秋葉原の量販店で購入した同一製品を、東京総合通信局の電波暗室で分解。

 すると、製造上の重大な不具合が見えてきた。


 本来であれば、高周波回路を覆うべきシールドケースが金属板で作られるべきところ、

 一部のモデルではコストダウンのためにプラスチック製のカバーが使われていた。


 結果、回路から漏れた高周波信号がアンテナ基板に周り込み、

 まるで送信機のように外部へ「放射」されていたのだ。


「要するに、作りの雑さが“電波の垂れ流し機械”にしちまったわけだな」

 戸隠が呟いた。

「これは……悪質って言うより、単なる設計ミスか」



---


 分析課は直ちにメーカーを呼び出した。

 会議室には、青ざめた顔の技術責任者と営業部長が並んで座らされていた。


「我々の測定結果を示します」

 分析課の主任が淡々と資料をめくる。

「このスペクトラムをご覧ください。おたくの製品は、電波法上の許容値を大きく超過している」


 スクリーンに映し出された波形は、素人が見ても一目瞭然だった。

 メーカー側は、しばらくの沈黙の後、深々と頭を下げた。


「……認めます。設計段階で、コスト削減のために遮蔽部材を樹脂化した結果です」



---


 結論は速やかに出された。

 メーカーは、対象製品約 1万台 を送料着払いで自主回収する。

 さらに、購入者には定価2万円を全額返金する措置を取る。


 戸隠は報告書を閉じて、ほっと息をついた。


「ようやく片付いたか。しかし、いくらのコスト削減になったのかわからないが、結果2億円以上の損害を出すというのは皮肉としかいいようがないな…。」


 名立が疲れた笑みを浮かべる。

「でもこれ、長野だけじゃなく、全国でホテルやCATV局が困ってたんでしょう? ウチの小さな調査が突破口になるなんて、ちょっと誇らしいですよ」


「誇らしいが……」

 戸隠は頭を掻いた。

「また“暇そうに見える俺ら”の出番だったってのが、なんとも皮肉だな」



---


 別の案件で移動中の車内。

 峠道を下りながら、島見が笑って言った。

「局に来る相談って、たいてい“なんでこんなことに”って案件ばかりですよね」


「だからこそ俺らの仕事があるんだ」

 戸隠は助手席から前を睨むように言った。

「誰も気づかない異常を拾って、形にして、必要なら技術オバケにバトンを渡す。

 それが、我々の役目ってやつだ」


 峠を吹き抜ける風が窓を叩き、ワゴン車は緑の中を走り抜けていった。



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