大積峠レジャーホテルの謎 第1話『途切れる衛星音楽放送』
昼過ぎ、信越総合通信局の障害申告窓口に一本の電話が入った。
応対した島見が要点をメモしながら眉をひそめる。
「長岡市大積峠近くのレジャーホテルで、契約している衛星音楽放送が時々途切れるそうです」
その場に居合わせた戸隠弘明が、のんびりと顔を上げた。
「レジャーホテル?」
「ええ、何件かまとめて入ってます。申告元はミュージックラインキャスト株式会社。トリアクトグループの子会社で、衛星音楽チャンネルを配信してる会社ですね」
戸隠はしばらく黙り、首を傾げた。
「……ところで、“レジャーホテル”って何だ?」
すると名立が即座に答えた。
「……まあ、昔で言うラブホテルですよ」
「……ああ」
戸隠の間の抜けた返事に、室内の空気がわずかに和む。
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だが、問題はそこからだった。
ホテル運営会社から、調査に関する厄介な要望が寄せられていたのだ。
> 『業態の性質上、調査は敷地内や至近で行わないでいただきたい』
「つまり……来るなってことですね」
島見が苦笑交じりにつぶやく。
「まあ、立場はわからんでもない。お客が警戒して逃げたら商売にならんし」
名立が肩をすくめる。
戸隠は、机上の申告票をしげしげと眺めた。
「……けど、電波は見えんからな。近寄らずに済むなら楽だが……」
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通信局の人員は限られている。
総勢十三名。誰かが休めばすぐ穴が空く。
派手に張り込みをする余裕などない。
それでも放ってはおけない。
衛星音楽放送は、ホテルにとって客室演出の要でもある。
客の滞在体験に直結するサービス品質が揺らげば、契約にも響く。
「とにかく、外から取れる線は潰すしかないな」
課長の新津の指示で、調査班が動き出した。
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まず疑ったのは、ホテル自体の電源設備だった。
大型空調や業務用ボイラーが作るパルス性ノイズが、衛星受信機を狂わせる例はある。
だが、発生パターンが一致しない。
また、屋外の高圧電線なども調べたが、一部碍子割れによる絶縁不良が原因の火花放電はあったものの、300MHzあたりまでであり、衛星放送の周波数11GHz帯どころかアンテナからのIFである1GHz帯には影響は皆無であった、
次に、不法投棄の機器を洗う。
山間の峠道には、壊れたアンプや古い車載機器が捨てられていることも珍しくない。
電源が残っていれば、断続的にノイズを撒き散らすこともある。
しかし、峠周辺を踏査しても、この間、国土交通省長岡河川国道事務所などが不法投棄品の回収を行うクリーン活動を行ったばかりらしく、大積峠周辺はきれいなものだった。
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時間だけが過ぎていく。
ホテル側からは「早く原因を見つけてほしい」との催促が入る。
風間市子の畑からもらったキュウリを思い出しつつ、戸隠はため息をついた。
「……また、わからん系か」
昼行灯のような声だったが、その目は鋭く測定器を睨んでいた。




