有閑閑話 昼行灯電波監視官戸隠弘明の夏休み
お盆が明けた週、戸隠は交代で夏休みに入っていた。
戸隠弘明の番は、ちょうど街の蝉しぐれがピークを迎える頃だった。
実家に帰るでもなく、旅行に行くでもなく――
彼は庭に出て、草むしりに精を出していた。
帽子を目深にかぶり、手ぬぐいで首を覆い、無心に雑草を抜く。
ふと視線を落とすと、庭の片隅でミョウガとシソが自生しているのを見つけた。
「……これでそうめんでもやるか。」
昼は冷たくてさっぱりしたものに限る。
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ちょうど薬味を刻もうと包丁を握ったとき、表の戸を叩く音がした。
大家の風間市子である。
腰に手ぬぐいを巻き、籠いっぱいのキュウリとナスを抱えて立っていた。
「戸隠さん、畑が採れすぎちゃってね。食べる?」
「助かります。ちょうどそうめんの準備してたところで。」
市子はにやりと笑い、
「じゃあ、私も食べていこうかしら。どうせ昼は一人だし。」
と、靴を脱いで上がり込んだ。
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冷たいそうめんに、ミョウガとシソ、そして市子の持ってきたキュウリの浅漬けを添える。
縁側で扇風機の風にあたりながら、二人でずるずるとすする。
「……これが一番の贅沢かもしれませんね。」と戸隠。
「そうそう。夏は外に出ないのが一番よ。」と市子。
蝉の声と、風鈴の音が静かに重なった。
午後になればまた草むしりをするつもりだったが、
そのまま昼寝に流れ込むのも、悪くないと思えてきた。




