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【有閑閑話】 電波とココロの波長

季節の変わり目になるとこの手の話もあるとか…ないとか…

「……あのぅ、最近、頭の中で誰かがラジオを流してるんです。しかも選曲が古くて、山口百恵とか……これは不法電波じゃないですか?」

午前10時。通常ならライセンス関係の電話が多い時間帯に、ラジオ放送受信障害窓口につながった一本の電話が、長野総合通信局・電波監視官 戸隠弘明とがくしこうめい係長のデスクに転送された。

受話器を耳にあてながら、戸隠は左手でメモ帳をめくるふりをして、右手ではそっと音もなくラジオのボリュームを絞った。流れていたのは、ちょうど笹原弘子の『すりガラスのきらめき』。心の中で「あぶねぇあぶねぇ」と呟く。

「なるほど……それは、頭の中限定ですか? お部屋のスピーカーとか、実際に音が出てるわけじゃなく?」

「はい、そうです。頭の真ん中あたりから聞こえる感じです。しかも選曲が絶妙で……『イミテイション・ゴールド』から『プレイバックPart2』へ……これは、電波で操作されてる証拠だと思うんです!」

戸隠は黙ってメモ帳をめくる動作を続けた。3ページほど進めたところで、どのページにもそれらしい「頭内ラジオの相談」の項目がないことを確認した。

「お名前、お願いできますか?」

「……高峰です。仮名でいいですか?」

「もちろん。ラジオネームでも結構ですよ」

「じゃあ、“タカミネ・レッド”で」

戸隠は鼻先で小さく笑い、「了解しました」と、メモ帳に「タカミネ・レッド/頭内音声あり/百恵中心」と書き込んだ。

「タカミネさん、失礼ですが、近所にラジオ塔や中継所などはありますか?」

「近所にセブンイレブンはありますけど……」

「うーん、セブンのナナコ電波じゃないと思いますね……一応こちらでも、不審な発信源がないか確認してみますが……。ただ、頭の中でしか聞こえない音については、ちょっと我々の専門外になるかもしれません」

「……やっぱり、病院行った方がいいですかね」

「ええ、電波のことは我々にお任せください。頭の方のチャンネルについては、専門のお医者さんにぜひご相談を」

戸隠は一瞬、心臓が跳ねた。

「……お詳しいですね、タカミネさん。では、最後に。今、頭の中では何がかかってます?」

「……あ、『リンドバーグの今すぐKiss Me』に変わりました」

「それは電波じゃなくて、昭和と平成の間からの、呼びかけかもしれませんね」

通話を終えた戸隠は、ため息をついてからそっとつぶやいた。

「……オレの脳内も、今『特捜最前線』が流れたわ……」


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