生命を繋ぐ者、断つ者、守る者 4『境界を超える探査線』
第四章『境界を越える探査線』
週明け、ようやく晴れ間がのぞいた軽井沢。
神主の協力を得て、群馬県側の熊野神社境内に、仮設型の補完センサが慎重に設置された。設置班の技術職員は、社の奥手にある松の木の間から見通しを確保し、センサのアンテナを東南方向へ向けた。
ログ取りを開始して数分後、端末に記録された方位線を見て、名立が小さく息をのんだ。
「……来たぞ、やっぱりこっちだ」
モニターに表示された赤線は、おおよそ関東平野の北西端に向けて直進していた。
具体的には、太田、館林、古河、小山の間を通過するような角度。この範囲内に、例の発信源が存在していると見て間違いない。
「長野総合通信局の範囲外……完全にこっちの手を離れてる」
名立の声は低いが、どこか嬉しげだった。
こうなると次の一手は——東京総合通信局との連携。
課長の新津が東京・九段の東京総合通信局監視第二課に事情を説明。
「熊野神社で補足した方位線が貴局管内を指している。御局のDEURASセンサを一定期間、信越側から操作させていただきたい」
要請は極めて丁寧に、だが的確に伝えられた。
承諾の返事は、早かった。
担当課長の上尾が即座に了解した。
「小山、古河、館林、太田の4局。いずれもスタンドアロンの探査モードで提供可能です。期間は48時間」
「必要十分です」
新津はそう返し、戸隠のもとに進捗を伝えた。
「どうするかは、東京側からの探査結果を見てからにしよう。名立たちには、解析を優先させてくれ」
「了解。……しかし、あの方角か。渡良瀬の流域だな。あそこはなかなか厄介だぞ」
「なんで?」
「事業所は点在してるし、県境も入り組んでいる。アマチュア無線家も多い。住宅の屋根に八木アンテナがあっても不自然じゃない。それに……“業務で使ってる”となると、突っ込まなきゃバレない」
通信記録の解析が始まった。
熊野神社センサからの方位線と、東京局の4局センサからの相関データを突き合わせ、タイムスタンプ単位で混信時刻の突合せを行う。
その結果、館林と古河のセンサにおいて、同一時間帯にビームパターンが一致する信号源が確認された。
「来たな……」
名立は、画面をのぞき込みながら呟いた。
「こいつ、アマチュア機を無線インカム代わりに仕事で使ってるな。しかも『空いてるからいいだろう』って軽いノリで」
「本人は問題ないと思ってるんだろうな……だけど、技適のない海外製無線機で無免許で業務通信、しかも医療通信への直接妨害とあっちゃあ、ただじゃ済まん」
——ターゲットは、浮かび上がってきた。
発信源は渡良瀬遊水地付近を指していた。




