生命を繋ぐ者、断つ者、守る者2『 DEURAS、目を開けよ』
第2章『 DEURAS、目を開けよ』
「よし──ログ、全部出たぞ」
DEURAS操作卓の前に陣取った名立が、椅子を軋ませて振り返る。
信越総合通信局の無線監視室。その壁一面の大型ディスプレイに、五つのセンサ局からの時系列データが並んでいる。
「対象は148MHz帯、上り受信周波数の±2MHzで設定した。長野北・あづみ野・伊那・諏訪・小諸の五局を同時監視してる。30秒刻みで方位表示」
戸隠がうなずく。
「いい。まずは直近、日曜の14時台の搬送でトラブルがあったはずだ」
島見が補足する。
「対象事案は、佐久から信大病院への搬送時です。防災センターからの通信が途切れた時間が、14時11分からおよそ2分間。その間、医師と操縦士は衛星電話を使って状況報告をしていたようです」
「……やるな、衛星電話。おれなんて昔、隣町の鉄塔に登らされたってのに」
名立がつぶやいた。
「14時11分……あった。あづみ野センサで、急激な信号強度の上昇。方位は西南西。諏訪もほぼ同時刻に、東方からの信号を検出」
戸隠がホワイトボードにさっと方位線を描く。
「交差……しねえな」
「逆に、長野北・小諸・伊那ではノイズらしい記録なし。つまり県境を越えてる可能性が高いです。県内センサではフォローしきれてない」
名立の声に、島見が手帳をめくる。
「関係しそうな交通インフラ……この時間帯、上信越道の下仁田〜佐久間で工事用車両の通行が記録されてます。建設系業務用無線の誤発射か?」
「……それが無許可だったら、話が早いんだがな」
戸隠は鼻をこすった。
「方向性としては、群馬・埼玉側からの発信を疑うべきだろう。だが……このデータじゃ絞り込めねえ」
「どうします?」
戸隠は少し沈黙してから、ホワイトボードを見つめながら言った。
「DEURAS補完局を置く。県境ギリギリで、群馬方面を監視できる高所。……たとえば、軽井沢の熊野皇大神社のあたりとかどうだ?」
名立が眉を上げた。
「あそこ……県境のど真ん中ですよ。長野県と群馬県が地続きになってる場所。中継にゃ絶好ですが──神社って……」
島見が、しばらく黙っていたが、ぽつりと口を開いた。
「社務所、たしかWi-Fiありましたよ。あと、巫女さんがインスタやってます」
「……今どきの情報収集だな、島見。よし、調整に入る。神主さんの説得は、名立がやる」
「え、オレがですか?」
「交渉ってのは、ある程度年季の入った人間の役目だ。名立も係長をあと数年でやることになるだろうしな…。実はな…俺、昔な──ここの前にの筑波山の神社で、FM帯域の電界測定用標準ダイポールアンテナ立てるとき、三日間社務所で泊まり込みしたことあるんだよ」
名立が呆れたように言った。
「戸隠さん…、あなた……電波監視官というより……妖怪交渉じじいですよ」
「……うまいこと言うな、名立。お前、今度カラ出張で交通費浮かせ」
「やめてください、冗談じゃない」
島見が控えめに笑った。




