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生命を繋ぐ者、断つ者、守る者1『混信の一報』

第1章 ― 混信の一報 ―

「……で、結局、七輪に残ったクサヤの匂いは三日たっても取れなかったって話さ」

月曜の朝。信越総合通信局、電波監視課の事務室。

クーラーの効きすぎた室内に、くぐもった笑い声が響いた。

「戸隠さん…、それ、もはや騒音じゃなくて公害です」

総務技官・**名立なだち 達彦たつひこ**が苦笑まじりに応じた。無線工学畑一筋の、理屈っぽい30代後半。いつも戸隠の言動に巻き込まれては、ブツブツ文句を言いながら付き合ってくれる頼れる部下だ。

「ま、孤独死よりゃマシさ。風間さんの目の前で焼いたし、もう怖いもんはないな」

「私、あの匂いで帰宅後3時間、何も食べられませんでした……」

眉をひそめたのは、事務官・島見しまみ 杏果ももか。入局2年目の若手で、新潟市出身。クールな外見に反し、無線業務の現場対応にもすでに慣れつつある。

そのとき、内線が鳴った。

「……はい、電波監視課、島見です。……えっ……?」

彼女の表情が一瞬で凍りついた。

「……はい、承知しました。技術的な詳細は、後ほど直接確認いたします。すぐ、課内展開します──」

電話を切った彼女が振り返る。

「長野県防災航空センターからです。ドクターヘリの通信が、週末から断続的に不通になっています。搬送先とのやりとりができず、トラブルに……」

名立が身を乗り出す。

「電波妨害か? 何MHz帯?」

「美ヶ原の受信側、上り回線のほう。148MHz帯付近だそうです」

戸隠は鼻の下をこすった。

「ドクターヘリの受信周波数に、混信。面倒なやつだな……」

「関係各所には、すでにお詫びと状況説明を出しているそうですが、『意図的ではないか』という声も出始めているとか」

課内の空気が静かに変わる。

戸隠は、背後のロッカーから自分の作業バッグを引っ張り出しながら言った。

「名立、DEURASで監視ログを取ってくれ。長野南、あづみ野、伊那、諏訪、小諸……美ヶ原を取り囲むセンサ全部だ。時系列を洗って、干渉源が特定できるか見てくれ」

「了解。時刻、どこを基準にします?」

「現時点の最新通報にある搬送トラブル発生時刻。あとは、通常の搬送スケジュールを洗い出してピーク帯を探れ。たぶん朝と夕方が山だ」

「俺が現場に出るってこと?」

「そうだな。一番可能性が高いのは、美ヶ原中継局の受信側。構成図を出してくれ。送信・受信・病院間リンクの経路も確認する」

杏果がメモを見ながら補足する。

「送信は美ヶ原から。受信はヘリ→美ヶ原→光ファイバーで、佐久・信大・日赤の三病院に伝送されてます。送信周波数の下、148MHz帯が受信に使われてるとのことです」

名立がぼそっと言った。

「てことは……帯域近くにパワーの大きい信号が出てたら、受信機が潰される可能性があるな」

「そうだ。一時的にガツンと出て消える信号だと、なお厄介だ。狙いすまして出してるわけじゃないなら、再現性も取れん。となると……」

戸隠は口元をわずかにゆがめた。

「自然現象か、故障か、無自覚の加害者か──いずれにせよ、静かな戦争の始まりってわけだ」


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