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生命を繋ぐ者、断つ者、守る者 プロローグ 『空に届かぬ声』

プロローグ― 空に届かぬ声 ―

春の安曇野。残雪の北アルプスを背に、田畑と住宅が点在する一帯に、風切り音を切り裂くようにドクターヘリが飛来していた。

「こちら本部、ドクターゼロツー、応答せよ。搬送経路を南へ変更、北小倉小学校グラウンドへ着陸願います。繰り返す、北小倉小学校へ──」

病院の通信制御室では、担当オペレーターが何度も呼びかけていた。

──だが、返事はない。

ヘリの位置情報は、タブレットの地図上で静止したままだ。通信インジケーターのランプは点滅を繰り返していたが、応答は“ノイズ混じりの断片”のみ。

「……“出る”って、今……何か言いましたか?」

「ノイズです。何か工事現場のような、ざわついた音声がかぶって……でも、この周波数帯でこんな音は本来あり得ない……!」

責任者が走って入室した。

「交信できないまま、ヘリが着陸した。患者は重症の外傷。医師が『通信が使えれば搬送先を変えられた』と……怒鳴り込まれてるぞ。通信障害だ、至急報告書を作れ!」

数秒の沈黙。制御室の全員が、その言葉の重みに唾を飲んだ。

その日のうちに、県庁、信州大学病院、消防、航空隊、そして――総務省長野総合通信局に、一本の報告が入った。

「ドクターヘリ運用において、医療用無線周波数に断続的な混信あり。意図的かどうかは不明。影響重大。調査願いたい。」


そのころ、長野市の郊外。大豆島まめじま――。

一人の男が、庭先で草むしりをしていた。

「雑草も電波も、目を離すとすぐに増える……ってな」

――彼の名は、戸隠とがくし 弘明こうめい

長野総合通信局・電波監視官。

“昼行灯”と呼ばれながらも、どこか只者ではない風貌。

明日もこんな平和な時間が流れれば良いのに…そう思うのだった。

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