空と線路が鳴いている4『ノイズの正体』
第4章 ノイズの正体
朝の5時。空は一面の鉛色。低い雲が重く垂れ込め、空気は湿気をたっぷりと含んでいた。
戸隠は眠気まなこで、コーヒー片手にDEURAS-M6の助手席に乗り込んだ。
「5時3分、ノイズピーク、150.8MHz」
名立が画面を指差す。
「さっきから3分おきに出てます。連続じゃなく、断続的なスパイクです」
「400.2MHzにも、1秒遅れで似たノイズ」島見が追随する。
「方向、間違いないな。アパート屋上だ」
戸隠はぐっと目を細める。
「ノイズのタイミングが一定すぎる。これ、何かが自動制御されてるな。電流の流れか、リレーの切り替えか……」
「……自動追尾型の太陽光追尾システム、じゃないですか?」
名立が口を開いた。
「昨夜の屋上の、あの奇妙なモーター付き架台。あれ、太陽の方向にパネルを向けて出力を最適化するタイプのやつかもしれません。一定角度ごとに動いて、そのときインバータが切り替わって……」
「なるほどな。しかも、VHF帯に飛び込む強いスイッチングノイズが発生する設計ミスか、あるいは故障……」
そのとき、島見のスマホが振動した。
彼女はすぐに耳に当て、頷きながら受け答えをする。
「はい、確認しました。法務局の登記情報、出ました。アパートの所有者は『株式会社エネステージ長野支店』。本社は関西。電力小売り事業と太陽光発電の施工・管理が主な業務みたいです。実態は……かなりグレーな会社という話も」
「おおかた補助金目当ての再エネ乱開発企業だな」
戸隠は眉間を揉みながらため息をついた。
「施工ミスや品質不良が放置されてても不思議じゃない。入居者に被害が出ないようなら、まずは行政指導で改修させるルートだな。だが、相手がのらりくらり逃げる可能性も高い。こっちも証拠固めておかないと」
「鉄道会社には?」
「もうちょい待たせろ。原因が特定できてるって言えば安心するが、証拠が薄いと不安がらせるだけだ」
そのとき、再びノイズのスパイクが現れた。
今度は、タイミングとともにアパート屋上のパネルが、わずかに角度を変えたのが見えた。
「見たか?」
「はい、動きました。ノイズと完全に同期してます」
「よし……証拠、揃ったな」
戸隠は無線局免許課と連携を取るよう指示を出し、名立に計測ログのバックアップを命じた。
最後に島見の方を見て、声を落とす。
「……朝飯、まだか?」
「戸隠さん、それ今聞きますか?」
「うん。ここの近くに、朝7時からやってるモーニングの定食屋があるんだよ。干物がうまい」
「……じゃあ、行きましょう」
島見は笑った。




