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空と線路が鳴いている2『音なき騒音』

第2章 音なき騒音


北長野駅に着いた時、空はなおも重く、薄墨を流したような灰色だった。

「ここが、例のノイズが入った場所の一つです」

島見杏果がヘッドホンを肩越しにさげながら、DEURAS-M6のリアモニタを操作している。

戸隠は、車を降りると傘も差さずに空を見上げ、耳を澄ませた。

電車の接近放送、踏切のカンカンという音――

それに混じって、どこか遠くで“チリチリ”という高周波的なノイズが、ほんのかすかに聞こえた。

「この駅、駅舎の屋根が全面太陽光パネルなんですよね」

名立がそう言って駅舎の屋根を指さす。

「構内放送もLED照明だし、通信系はほとんど有線だが、補完的に無線。時代だな……」

戸隠は目を細めてパネルを見上げる。そこから音が出ているようには見えない。

いや、見えないのがノイズの厄介なところだ。

「この音、周波数は?」

「しなの鉄道の業務無線は400MHz帯です。ノイズはその付近、加えて……長野電鉄側は150MHz帯のはずが、そちらでも似たようなパターンが」

「250MHz飛んでるのか? ノイズが」

「意図的じゃなければ、広範囲に出力を撒き散らしてることになります」

名立の表情が曇った。

その時、しなの鉄道の戸倉通信指令室長が現れた。防水ジャンパー姿で、額には汗がにじんでいる。

「戸隠さん。いやあ、ようこそお越しを……本当に困ってましてね。朝夕の列車のやりとりが、ノイズで途切れるんですわ。業務に支障が出るレベルでして」

「地形の反射や気象の影響って線は?」

「天候の差がない日も起きてます。あと、運行ダイヤと微妙にシンクロしてるのが不気味です」

「シンクロ?」

「駅を通過する時にノイズが出るわけじゃない。定刻通り、列車が“発車しようとする”タイミングでノイズが入るんです。」

三人の目が一斉に鋭くなった。

「……タイミングか……」

戸隠は顎に手を当てて考える。

「まるで、“誰かが列車の発進に反応して、何かを起動してる”みたいだな」

そのとき、スマートフォンが震えた。

「長野電鉄の上条課長が信濃吉田駅で待ってるそうです」

島見が画面を見せる。

移動したDEURAS-M6は、信濃吉田駅の裏手へ入っていった。

すでに制服姿の上条無線通信課長がホーム端で待っていた。黒縁メガネが濡れて光る。

「お疲れ様です。実はうちも、しなの鉄道さんとほぼ同じ時間帯で、通信がノイズで遮られています」

「使ってる周波数帯は?」

「うちは151MHzの業務用です。列車と駅員の連絡用ですが……」

上条は少し顔をしかめた。

「そちらも朝夕?」

「ええ。特に始発便と終業前の回送列車がやられることが多い。ノイズは帯域の外にも飛び火してて、構内の自動放送にまで影響が出かけてる」

「物理的な共通点はある?」

「……駅舎と、その近くのアパート。あれ、数年前に建ったんですが、太陽光と蓄電池をフル装備してるんです。しかも屋上のアンテナ、ちょっと変わった形式で……」

「“変わってる”ってのは、どんなふうに?」

「一見、BSアンテナなんですが、**向きが頻繁に変わる。**住宅用じゃない気がするんです」

戸隠の目が鋭くなる。

「目星はついたな。あとは、そのアパート周辺のノイズ分布を確認しよう」

車は再び、暗い雨の中へと滑り出す。

ノイズの出所――それが、何かの故障か、あるいは悪意か。戸隠の目が静かに光った。


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