プロローグ
【総務省・地方総合通信局・電波監視官について】
電波は、目に見えないが、テレビやラジオ、携帯電話、Wi-Fi、さらには気象観測や航空機・船舶の通信など、あらゆる分野に不可欠なインフラである。
この貴重な電波資源を管理・監視し、適正に利用させる任を担っているのが、総務省である。
その地方出先機関である「地方総合通信局」は、全国に10局と沖縄総合通信事務所が設置されており、地域ごとの無線局の免許、電波の監視、不法無線の摘発などを行っている。
中でも「電波監視官」は、目に見えない“電波”を頼りに、複雑かつ広大な空間を飛び交う信号を追い、不法・妨害電波を突き止め、公共の安全と秩序を守る“電波のおまわりさん”である。
地味ながらも、正確無比な技能と冷静な判断力を要する職人たちの世界だ。
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【プロローグ ― 電波監視官 戸隠弘明シリーズ】
長野市・朝日町。官庁街の一角にある信越総合通信局の一室で、昼行灯のように存在感の薄い中年男が、今日も机に向かって鼻歌を口ずさむ。
名は戸隠弘明、五十歳。総務省信越総合通信局・電波監視官。
アニメと昭和刑事ドラマを愛する、見た目はどこにでもいる中年公務員。だが、いざひとたび電波が乱れれば、その瞳に光が宿る。
DEURASによる電波方向探査、周波数の精査、法律知識と地理感覚、そして何より人の心の隙を読む洞察力。
この男、ふだんはさえないが、事件となれば本物だ。
大陸からの技術スパイ、ドローン妨害電波、謎の空電ノイズ、そして時に人命さえ左右する危機が、静かに始まっている。
これは、そんな“見えない戦い”の最前線に立つ、寡黙な監視官とその仲間たちの記録である。
電波がある限り、彼らの物語は続く──。