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電波の影に沈む影6「信号の影」

第六章「信号の影」

新潟駅南口から徒歩五分のビジネスホテルの一室。

午後七時、戸隠弘明は冷房の効いたツインルームのデスクにノートパソコンを広げていた。窓の外には夕暮れの空が広がっている。

机の隅にはホテルで配られた岩盤浴の無料チケット。名立と飯島はすでに浴場へ向かい、汗を流している。だが戸隠は、冷えたコーヒー牛乳を手に、モニターの電波強度ログと睨めっこをしていた。

「……同じタイミングで、別のドローンの電波が浮いてるな」

ログの波形に、わずかにずれた帯域の強いピークが重なっている。TAD-3000が受信していたGPSと補正信号、それに紛れ込む“偽のRTK補正”らしき信号。それは農水省が提供している合法的なRTK基地局とは微妙に周波数が異なっていた。

「やっぱり来たか……サードパーティの不正局」

戸隠はUSBメモリから、前回類似案件で取り扱った資料を呼び出した。二年前、関東局の電波監視2課が都内で摘発した、いわゆる「私設RTK局」事件。農業用ドローンや測量機器に向け、独自の補正信号を発して課金するビジネスモデルだった。

「それを、今度は“攻撃用途”に転用したってわけか……。上等だ」


「戸隠さん、行かないんですか?岩盤浴、気持ちよかったですよ。サウナより身体に優しいし」

「俺は岩盤よりも波形浴。……見ろよ、この信号」

モニターをのぞき込んだ二人は、一瞬で表情を引き締めた。

「これ……完全に狙ってやってますね」

「周波数の選び方が正確すぎる。業者じゃなきゃ無理だ」

「その通り。しかも、基地局モドキの電波は墜落の五分前から出始めて、墜落直後に消えてる。偶然じゃない。短時間で一撃、狙い撃ちだ」

戸隠は立ち上がり、上着を羽織った。

「よし、明日は“高森”だけじゃなく、新発田と新潟北のセンサーにも再確認かけるぞ。行けるなら、長岡のログも洗いたい。DEURAS単独じゃ限界あるが、使える手は全部使う。新津課長には、俺から直に一報入れておく」

「了解です」

外は夜の帳が下り、駅の明かりが滲んでいた。

「本気で潰しにきてるな……。だが、潰されるのは、そっちの方だ」

戸隠の声は低く、静かだった。だが、その奥に燃えるものを、名立も飯島も確かに感じていた。


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