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【あらすじ】
神聖魔法と呼ばれる大規模な魔法によって国民全員の魔力が管理されている国で、順風満帆に過ごしてきたエルフの少女。
しかし、ある日から少女の髪と瞳に異変が起こる。そして、色は完全に変化し、神の裏切り者であるダークエルフの姿となってしまった。
そこで、少女は家族との平穏な生活のために、秘密裏に引っ越しをしようとするが、何者かから襲撃を受け……。
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どうして、感づかれたのかしら……
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「おい嬢ちゃん、大丈夫か?!」
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何も、ここまでしなくたって…
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「この見た目……もしかして、この子を狙って、こんな…?」
……
「返事はねえけど、まだ息があるぜ。馬車に乗せて、治療しよう。」
…
「運ぶの、お願いするわ…治療はワタシに任せて」
…
…
…
…
一定のリズムの音が聞こえてくる。自分の体も、同じリズムで揺られている。
それと、風に靡く布の音に囲まれていた。
…教会から聞こえてくる音楽以外の音で目覚めたのは、生まれて初めてのことかもしれない。
「ねえ、目を覚ましたわ」
「本当か?」
部屋…というより、布で覆われた大きな箱が、なにかに牽引されているようだ。
私は、その中で新しい服を着せられて、猫耳の女性に膝枕されて眠っていたようだ。
白と茶色の毛が混ざったふわふわのしっぽが、私の頬を撫でている。
…なんだか、すこぶる気分がいいのが、逆に私を不気味な気分にさせる。
「ここ…は…?」
「馬車の荷台の中よ……キミは、丸一日くらい眠っていた」
馬車ということは……もう一人、馬に乗って操縦している人がいるのだろう。
「お嬢ちゃん、あんなところで、一体どうしたってんだ?もちろん、言いたくないってんならいいけどよ。」
予想通り、もう一人の声が荷台の外から聞こえる。馬車に乗っているのは、私を含め三人らしい。
それで、私がどうしたって、確か…
「私、引っ越すつもりだったんです。その…私の姿を見たら、理由はわかるかと思います。それで、一緒に出発するためにお父さんの帰りを待ってて、そうしたら、その後ろに、教会の司祭がいて、…それで……」
…あの地獄がフラッシュバックする。
「落ち着いて……ここはもう安全よ、安心して」
猫の獣人のお姉さんが、私の手を握ってくれる。おかげてで少し落ち着きを取り戻して、状況に思考が追いつく。
「その見た目になったのは最近で、教会に目をつけられていたと。そんであんなことに、ってわけか…。」
…まだ、気がかりなことがある。両親の安否についてだ。
「……あの場には、私以外に、誰かいませんでしたか?」
「いや……見当たらなかったな。」
「ええ、そうね、あなただけ」
「そんな……お父さんも、お母さんも……もう…。」
感情が突沸するように、涙が溢れてくる。
まるで一昨日までが白昼夢だったと明かされるように、幸せだった生活が霧散する。
嗚咽が漏れて、言葉が紡げない。
…そんな私を安心させるように、猫のお姉さんが優しく抱きしめてくれた。
「………すみません。」
「ひどい現場だった……でも、死体も骨も、見当たらなかった」
「つまり、まだ生きてるかもしれねえってことだよ。……嬢ちゃんの家族、魔法、得意だろ?そう簡単にやられたりしねえって。」
「なんか、慰めるのへた」
「悪かったな!」
悲観しても仕方ない……とはいえ、楽観的にもなれない。今は彼らの言うように、どこかで生きていてくれることを祈るしかない。
でも、もしあの司祭に捕まっていたらと考えると…
…やめておこう。今は、何とか気持ちをを落ち着かせるべきだ。
母が身を挺して守ってくれたこの身を、今度は自分が守らねばならない。短気を起こして町に戻るなんて以ての外だ。
…
だが……。
あの司祭には、いずれ必ず見つけ出して、制裁を下してやる。
…
…
一旦、今は呼吸を整えて、自分自身の状況を整理することにした。
2話 九死一生