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幼い頃の生活は、幸せそのものだった。
親切な両親の愛を一身に受け、私はすくすくと育った。
…
学校に通い、良き友人に恵まれた。
「ねえねえ、お二人さん。」
「おっ、赤い瞳の"アカちゃん"。」
「もう、そう呼ばないでって言ってるじゃんかー。」
「ゴメンゴメン。」
「それで、どうしたの?"ヒトミちゃん"。」
「学校がおわったあとに、勉強を教えてもらいたいの。」
「いいよ。どこでやろうか?」
「じゃーあ、緑髪ちゃんのお家がいいなー。」
「あーっ、また勉強とか言って、本当はウチのワンちゃんに会いに来たいだけなんでしょー。」
「えへへー、あの子が可愛すぎるのがわるいんだよー。"エルフ"ちゃんも、それでいいよね?」
「賛成!」
…
得意魔法は母や父と同じで、それ以外の魔法も人並み以上に扱えた。
「…訓練、付き合って。」
「ええ、喜んで。」
「…手加減は、無し。」
「もちろん!」
…
勉学だって、苦労することは少なかった。それこそ、友達が教えを乞うてくるくらいには。
…
加えて、自分で言うのもなんだが……母の美貌を少なからず受け継いだ私は、町でも有名な美少女だった。
…
私の人生は、将来に憂いのない、満ち足りたものだった。
…
…
…はずだった。
…
…
…
ある日、異変が起こり始める。
私の髪は、元は全て金髪だったのだが……。ある朝、鏡を見ると黒い髪が混じっていた。
はじめのうちはほんの一部だけだったので、あまり気に留めていなかった。
…しかし、日を追うごとにみるみる黒色の侵食が広がっていく。
さすがにこの異常を看過できず、全体の二割ほどが変色したころから、学校を休み……家の外に出ることさえ無くなっていった。
黒髪は、世界的に見てもごく一般的な髪色である。
だが、私の髪はただの黒髪ではなかった。
闇魔法の魔力に似た異彩を放つ、漆黒。
黒髪の占有率が増えていくにつれて、私と両親の心が追い詰められていく。
…
原因は、突然変異……
……いや、その考えは、現実から目を背けているだけだろう。
…いつしか、家族全員、共通の結論に辿り着いていた。
先祖返り、或いは隔世遺伝。
髪が漆黒に染まりきったころ、ついには瞳の色も、奥に赫を秘めた色に変わってしまっていた。
鏡に映る私の姿はまさしく、聖書に登場する、"裏切り者"の一族……妖魔と妖精の、禁忌の混血……。
ダークエルフの姿、そのものだった。