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父はもともと、仕事を探すためにとある国を目指していた。
しかし、その途中で寄ったこの町で、一人の女性に一目惚れしてしまう。
それが後の妻……もとい、私の母だった。
勇気をもって話しかけ、何度か食事や外出をする機会を得て…。いつしか、母のほうも段々と父に惹かれていった。
…
だが、父も当然、この国の事情を知っている。
しかし、父は人を騙すようなことを嫌う誠実な人なので、自分の種族について隠すようなことはできなかった。
仲も深まってきたころ、結婚の提案より前に、父は自分の血のことを相談する。
父は、絶縁も覚悟の上だっただろう。…しかし、答えは予想だにしなかったものだった。
「そんなこと、隠して生活してしまえばいいんですよ。」
父は逆に驚かされてしまったものの、妖魔の血統のことを隠し通す覚悟を決めた。
…
それから、夫婦は何の事件もなく、幸せに生活してこれていた。地元でも評判の、おしどり夫婦だった。
…ただ、父は子どもをつくることをためらっていた。
父は思う。自身の血統のことをわかっていながら、子どもに責任を負わせることはあってはならないと。
だが、母は父と幸せに暮らせれば、もうこの国に未練はないという覚悟だった。
子どもができたことがわかったら、他の国で子どもが生まれるまで過ごそう。そして、万が一子どもに妖魔の血が色濃く発現したならそのまま引っ越してしまおうと、母は提案した。
またしても、父は驚いた。母はこの国の宗教の敬虔な信徒だったから、まさか国を出るなんて言い出すとは思ってもみなかったのだ。
夫婦の強い絆が、覚悟が、改めて証明された瞬間だった。
…
そうして、私は隣国で生を受けた。
容姿は、まさしくエルフそのもの……眩しい金髪に、綺麗な緑色の瞳だった。父に見られた爪の色の特徴も、現れていなかった。
…
私はこの国で、なんの変哲もないエルフの少女として、これまで生活してこれた。
物心ついたころに聞かされていた、自分が妖魔の血を引いていることなど、次第に意識から薄れていた。