第4章 第19節:「血筋」
私は、環から誘われるままに抱いてしまい、その結果、もう二度と環に会えなくなってしまったことを死ぬほど後悔していた。
身体の結びつきなど犠牲にしても、私には環の安らぎがどうしても必要だったのだ。
後悔の念を振り払えぬまま、次のメールに進んだ。
「私は、人間の進むべき本流を見極めていたが故に、時の為政者の逆鱗に触れ“鬼”として処刑された一族の末裔なのです。男たちは皆極刑を受けましたが、女たちは都を追放され、細々と生き永らえることができたのです」
「私の家系が女しか生まれない女系家族だったために、世の中を正しい流れに導こうとする“鬼”を捜し求め、その子を代々身籠って来ました。そうすることで、滅亡からの「救世主」となりうる“鬼”の血を守り続けてきたのです」
「でも、『もう、そんな人はいないのだ』と、功利に塗れたこの世に絶望し、死を覚悟して山に籠もった時にあなたと出会ったのです。
あなたには、確かに“鬼”の匂いがありました。まだ世間に迎合しようとする気持ちが残っていましたが、結局、欲望まみれの世間とは同化できず、あなたも死を望んでいたからです。そして、世間の亡霊に打ち勝って、見事に“鬼”として蘇ってくれたのです」
もう既に、私の思考は停止していた。
ただ、膝まづいたまま、空ろに最後のメールを開いた。
「心配しないで下さい、私は安定期に入りました。もう大丈夫です。あなたとの一瞬の真実の愛だけで、あなたの娘と楽しく生きて行きます。母も、祖母もそのように生きてきたのですから。あなたの永遠の妻 石城 環」
私は、そのまま床に崩れ落ち、深い闇の世界に引きずり込まれて行った。