第4章 第17節:「喪失感」
この状況に追い込まれて、初めて環の身の上を何一つ知らなかったことに気づかされ、自分の浅はかさを嫌というほど思い知らされていた。
以前、「御兄弟は?」と訊いて、環に「婚外子である」と告白させてしまったことへの後遺症から、環の家庭のことを話題にすらできなくなっていたのだ。
これから環と永遠に暮らせるものと勝手に思い込み、いずれ時がくれば話してくれるものと安心しきっていた。
しかし、やっと心身とも一体となった矢先に、そのベターハーフの居所を見失ってしまい、自分の甘さ加減にやり場のない怒りを覚えていたのだ。
それでも、メールでのやり取りだけは続けることができた。
しかし、「病室にいるので電源を切って置かなければなりません。時間を決めてメールを受信します」と、環はメールを開く時間さえも日に一回と指定して来たのだった。
「お見舞いに行きたいので、病院を教えて欲しい」と送っても、「今は病状が思わしくないので、落ち着いたら、こちらから連絡します」の一点張りだった。
固定電話なら、番号から大凡の地域の見当はつくが、携帯電話ではそれも叶うことではなかった。
メールの発信地を事業者に確認したが、『警察からの要請にしか開示できません』とあっさり拒否されてしまったのだ。
何の手がかりも掴めないまま、絶望感が焦燥感を次第次第に覆して行った。
環というベターハーフを失い、私は半身の喪失感とともに、心にもぽっかりと大きな穴が開いてしまったのだ。