第4章 第13節:「昇華」
静寂の中で、私は環の頭を乗せた腕の痺れに幸せを感じていた。
環は腕の中で、全てを私に委ねていた。
できることならこの瞬間を凍結し永久に留めたかった。
一時間ほど撫で続けた私は、環が眠りについたことを確信し、頭を撫でる手を次第にゆっくりとして、とうとうその手を止めた。
腕に環の重さを感じたまま、私も眠りにつこうとした時、環はうっすらと眼を開けた。
そして、悲しそうに私を見て言った。
「私たちは、智恵子の前で結婚したのです。どうしてあなたの妻として扱ってくださらないのですか」
私は、思わず環を抱きかかえた。
そして、背中に廻した手に力を入れて、環を強く引き寄せたのだった。
私がやさしく環の唇を吸うと、環は身体を強張らせた。
やはり、安達ヶ原で消え入りそうな声で囁いたとおり初めてなのだろう。
何よりも気がかりだったのは環の妊娠だった。
私が最後の行為をためらっていると『毎朝、基礎体温を測っていますから』と、環は消え入りそうな声で私を促したのだった。
それから、私の全ての動作に環は身体を強張らせたが、何度かの試みでとうとう二人は結ばれることができた。
そして、二人は抱き合ったまま眠りについたのだった。