第4章 第11節:「凍死」
それからの話題は、出会った時のお互いのことだった。
「生首を見た時、瞬時に『殺される!』と思いました」
と私が言うと、
「喪服だから、そう見えたんだ!」
環は可笑しくて仕方がない様子でお腹を抱えて笑った。
だが、急に身体を摩り始め「やっぱり、寒くなって来ちゃいましたね」と言いだした。
「山では夏でも凍死しますからね。もうシュラフに潜り込んだ方がいいでしょう」と言うと、環は今まで座っていた袋から、シュラフを引っ張り出し始めた。
私も、自分のシュラフを拡げて潜り込もうとしていると、
「どうして私のは反対側にファスナーが付いているの?」と、私のシュラフと見比べながら訊いてきた。
「凍えそうな時にお互いの体温で温め合えるように、シュラフを連結できるようになっているんです。凍死しそうな時に身体を寄せ合って寒さを凌ぐのと同じです」
私は答えてから、その言葉の持つ深刻さに気がついたのだ。
二人の間に重苦しい沈黙が漂った。
何を言い訳しても、全てが逆効果になってしまう状況に私は追い込まれていた。
「寒いようでしたら、ここに毛布がありますから使ってください」
私は気まずい沈黙に耐えきれず、自分が精錬潔白なことを示すためにフリースの毛布を環に差し出した。
それでも環は受け取ろうとぜず、LEDの青白いランタンの薄灯りの中で、なおも私をじっと見つめていた。
『完全に誤解されている』と私は、自分の軽率さを後悔していた。
もう、このまま寝るしかないと決め、シュラフに頭まで潜り込んだ。
すると、環は意を決したように囁いたのだ。
「私、凍死しそうです」
その声は微かに震えていた。
その意外な言葉に、私は耳を疑ってしまった。