第4章 第7節:「悪路」
やさしく肩を揺すられて、私は眼を開けた。
「可哀想だけど、このままでは暗くなってしまうわ!」
あわてて時計を見ると、すでに二時を回っていた。
もう、一時間近く寝ていたのだ。
環は、しばらく私が起きるのを待っていたが、一向にその気配がないので仕方なく起こしたのだった。
今の時期では、五時には日が落ちてしまうだろう。
奥深い山の中では、日が当たらずもっと早く暗くなってしまうのだ。
いくら設営が簡単なドーム型のテントでも、整地などの準備を考えると、できるだけ早く着きたかった。
八合目までの道は整備されているといっても砂利道に変わりはなく、雨で抉られて穴だらけの道路からのキックバックは強烈だった。
しかし、急いでいる私に、車の乗り心地など気遣っている余裕などなかったのだ。
暗くなってしまい、ルートを見失ってしまう方が、この場合ずっと危険なのである。
時々、環がルーフに頭を打ち付けたが、そのたびに引きつった笑いを浮かべていた。
もう、呆れ果てて笑うしかないのだろう。
ヘアピンカーブでスピードを落とした時、「へたに抗議すると舌を噛みそう!」と、シートから跳ねながら環が叫んだ。