第3章 第21節:「生き地獄」
環は、不承不承ながらも、私が承諾したのを確認すると、
「とっても楽しみ!」
と、微笑みながら、役目を終えた丁寧語を友達口調に戻したのだった。
この時、“もしかすると私の受け答えを、環は全て予測しているのではないか”と、私は思った。
私には、何もかもが環の思惑通りに進んでいるとしか思えなかったのだ。
思えば、環をキャンプに誘ったのは、会話の流れの上での単なる社交辞令でしかなかったはずだった。
物の弾みで出た言葉であり、当然、環が断るものだと私は信じ込んでいたのだが、実際は、“信じ込まされていた”と思えるほど、うまく噛み合い過ぎているような気がしてならなかった。
しかし、その反面、私の中に、環の思い通りになるのを望んでいる自分がいることも否定できない事実だった。
私には、抑えきれないほど強い環との同化願望があったが、欲望に溺れ餓鬼道に陥る自分をもっと怖れていたのだ。
一度陥ってしまえば、際限なく環中毒に陥ってしまうことは目に見えていた。
環の安らぎは昏睡に陥るほどの絶対的なものだったのだ。
しかし、その分、その禁断症状は、死ぬ方が楽なほどの“生き地獄”そのものだった。