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第3章 第20節:「心中」
環がどんな考えで、こんなことを言い出したのかを、私は計り兼ねていた。
「しかし、あそこはもう雪が降るかも知れません。そうすれば、確実に遭難してしまうでしょう。とても、行けたものではありません」
と、正直に言い訳をした。
「私は、どうしてもあの場所に行きたいのです。あなたと時空を共有したからこそ、今の私たちがあるのです。もし、私たちが遭難したとしても、二人とも振り出しに戻るだけではありませんか」
環は、確実に私を追い詰めて来た。
「もし遭難したら世間からは心中と思われるかも知れませんね。私はそれでも構いませんよ」
環はこう付け加えて、いたずらっぽく微笑んだ。
「私は、あなたがいるので今は死ぬのが怖いのです。では、心中とならないようにできるだけ装備を整えます」
「でも、自然を拒絶するようなことは止めてくださいね。テント、シュラフなど必要最小限にしてください」
私は深いため息をつきながら、環の提案を受け入れた。
元はと言えば、心の底で蠢いていた私の自殺願望から始まったことなのだ。
力なく「わかりました」と言うのが精一杯だった。