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第3章 第19節:「約束」
一頻り笑った後、環は急に真顔に戻った。
気がつけば、環がこの顔をした時、私は環の次の言葉を緊張して待つようになっていた。
それは、環から思がけない言葉がきっと出てくるからだ。
「約束通りキャンプに連れて行ってくださいませんか。安達太良山で誘っていただいたはずです。その約束を、来週の土曜にぜひ実行していただきたいのです」
環は私を見つめ、意を決したようにこう切り出した。
そして、わざと敬語に変えることで、一歩も引かない強い意志を私に示したのだ。
私は絶句した。
私がいくら身構えたところで、やはり無駄なことだったのだ。
私は考えあぐねた末に、環にこう提案した。
「それじゃ、オートキャンプ場にしましょう。併設されているトレーラーハウスやコテージなら電気やガスなど設備が整っているし、管理が行き届いているから何があっても安心です」
「いいえ、私は初めてあなたと出会った場所に行きたいのです」
環の思いがけない言葉に、私は再び言葉を失ってしまった。