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第3章 第9節:「黒塚」
二本松インターを降り、国道をさらに北上すると目の前に国道の上を渡っている陸橋が現れた。
路側の案内板に「黒塚 観世寺」とあり、左折して目の前の陸橋を渡るように指示してあった。
「鬼婆が住んでいたにしては、にぎやかですね。芒だらけの野原を想像していたので、びっくりしました」
陸橋を渡っている時、目の前の「安達ヶ原ふるさと館」という立派な建物を見て、今までじっと考え込んでいた環が思わず声を上げた。
ふるさと館の駐車場に車を停め、案内の矢印に従って歩いて行くと、そこは一里塚のように土を盛って松が植えてあり、その根元に「黒塚」と彫った碑があった。
反対側には黒塚の由来が書いた高札があった。
「ここで、観音様に弓で射殺されて埋められたのですね。でも、殺されたのではなく、成仏したのですよね」
説明を読んでから、環は私に同意を求めてきた。
愛に溺れ、生き地獄をさまよった老婆が、哀れで仕方ないのだろう。
「多分、溺愛は愛ではないことを悟った時、やっと成仏できたのでしょう」
「溺愛は、愛ではないのですか!?」
余程心外だったのか、環は鸚鵡返しに訊き返してきた。