第2章 第13節:「こけし」
お弁当をおいしく食べ終わり、蜂蜜漬けのレモンスライスを入れた紅茶を飲んでいると、
「ここからだと、福島の市街が一望できるのですね」
と、外を見ていた環が言った。
「行ってみますか?」
「ええ、でも私も人ごみは苦手なので、混むようなら戻って来ましょう」
地図で確かめると、ここまで来た道をなおも北上すれば、土湯温泉を通って福島市街に行けることがわかり、その道順で福島市に向かった。
「土湯はこけしで有名なんですね」
道沿いに「こけし館」を見つけ、環が私に話しかけてきた。
「こけしには、いろいろな系統ぐらいあるようですね。確か土湯系もあったと思います。昔は“木でこ”とか“でくの棒”とか言われていたようです」
「私も、子供の頃、首を回すとキュッキュとなるこけしを持っていました。あれは、鳴子こけしだったと思います」
「こけしは飢饉で苦しんだ東北地方にしか無いので、間引いた子供の供養に作ったから“子消し”なのだという説がありますが、それは全くの作り話のようです」
しばらく、こけしの話で盛り上がっていたが、そうこうしているうちに、いつの間にか土湯を抜けてしまった。
このまま行けば、あと二十分ほどで福島の市街地に入ってしまう。
「余り遅くならないうちに帰りませんか。遅く帰ると周りから変な目で見られてしまいます。好き好んで世間を敵に廻す必要はないと思います」
「聡さんが、そうおっしゃるのならそのようにします。あなたを失うことはできませんから」と、環はひっそりと答えた。
この言葉で、また狂おしい愛しさが私に襲って来た。
もう、私には何も言うことができなかった。
激情に流されてしまえば、この無垢な緊張関係が崩壊してしまう。
私には、それが何よりも恐ろしかったのだ。




