第2章 第11節:「赤毛のアン」
私には、これ以上の二人だけの状況に耐え切れそうになかったので、
「そろそろ、行きませんか」と告げた。
環は、一瞬顔を曇らせたが、何も言わずに魔法瓶をバスケットに仕舞い始めた。
それから、二人とも言葉少なに歩いていたが、まもなく勢至平の登山道に合流することができた。
どうやら、この自然歩道は、渓流に沿って登山道を迂回しているようだった。
「これから、山頂まで登るには中途半端な時間ですね。途中の“くろがね小屋”まで行って引き返して来ましょうか?」
「でしたら、もうちょっとドライブしませんか?まだ、お弁当を食べていないので、バスケットが、ちっとも軽くなっていないのです」
「何が入っているのか判らなかったので、持っていいものかどうか迷っていたのです。お弁当だけなら私に持たせてください」
「大丈夫です。でも、両手が空くようにザックにするべきでした」
環は、確かにバスケットの取っ手を両手で掴んでいた。
その様子が、昔読んだ「赤毛のアン」のようで、私にはその仕草がとても眩しかった。
何度も渓流を渡り、川に沿ってジグザグ歩いたので、かなりの距離を歩いたと思っていたが、登山道を戻ると驚いたことに駐車場はすぐそこだった。
余りの近さに、二人同時に顔を見合わせ笑ってしまい、二人の間に漂っていた重苦しい空気を追い払うことができたのだった。