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第1章 第16節:「必要性」
「これからも、会っていただけませんか」
私が冷めかけたお茶を一気に飲み干した時、立ち去ろうとする気配を敏感に感じ取ったのか、女が引き止めるように言った。
「世間から見れば、私たちは好ましい関係とは見られないでしょう。あなたは、世間を敵に廻してでも、私が必要なのですか」
私は、立ち上がりながらこう言った。
「では、あなたは私を必要としていないのですか」
女は私の質問に答えず、逆に切り返してきた。
私は、自分こそこの女を必要としていることに気付いていたのだ。
女との凍りつくような出会いの後、女の膝で私が胎児に戻った時にそれを知ったのだ。
あの時、私は恐怖で竦み上がってしまい、殺されても仕方ないとこの女に全てを委ねた。
そして、女から与えられたものは、命さえ委ねることでしか得られない、何ものをも超越した安らぎだったのだ。
しかし、私は自分の安らぎのために、この女を世間の晒しものにすることなどできず、このまま立ち去ろうと決心していたのだ。