第1章 第11節:「共鳴」
目的地が定まってホッとしたせいか、急に自分の喉がカラカラに乾き切っていることを思い出してしまった。
そこで、何か飲み物を買うために、途中のコンビニに立ち寄ることにした。
「何か買ってきましょうか。それとも、あなたも一緒に行きますか」
車をコンビニの駐車場に停め、ドアを開けて降りるとき、念のため女に訊いた。
「私が払いますから、欲しいものがあれば何でも買ってください。これを着ていれば泥だらけの喪服だなんてわかりませんから」
こう言って、私はザックの中からマウンテンパーカーを引きずり出して女に手渡した。
女は自分の泥だらけの姿を気にしているようだった。
それに、何と言っても女の全財産は三途の川の渡し賃の六文銭代わりの五円玉六つだけなのだ。
しばらく女は躊躇していたが、結局、ワンピースまですっぽり覆ったパーカーを着て、うつむきがちに私の後を従いて来た。
女は、お茶とオニギリを二つを遠慮がちに私の籠の中に入れてから、静かにまた車まで戻っていった。
どのくらいの間、女が喪服姿で山にいたのか分からないが、あの様子では、かなりの空腹に思われた。
人間嫌いになった私があの場所に行かなければ、間違いなくこの女は死んでいただろう。
「本当に、この女の時空に私が共鳴したのだろうか?」
私には、万に一つもあり得ない今日の出会いがどうしても信じられなかった。
支払いを済ませ車に戻ると、女は言い訳するように小さな声で話しかけてきた。
「アパートを出る時に、腐ってご近所の迷惑にならないように、食べ物を全て処分してしまったのです。ですから、家に戻っても、何もないのです」
この時、出会った時の女の微笑みがまざまざと私の脳裏に甦ってきた。
あの嬉しそうな微笑みは、心の底から湧き上がる蘇ったことへの喜びだったのだ。