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第1章 第10節:「弔(とむら)い」
国道にぶつかる数キロ手前から、砂利道が申し訳程度に舗装されていた。
タイヤからの振動と騒音が突然なくなり、二人の間にあった適度なバリアが消え失せてしまったのだ。
女の息遣いまで聞こえる程のあまりの静寂に、私は再び落ち着きを失ってしまっていた。
これ以上の静寂に耐え切れず、私は仕方なく口を開いた。
「家はどちらですか」
私には遠回りする気力など、もう一欠片さえも残っていなかったのだ。
ただ、この異常な状況から逃れ、自分の隠れ家に一刻も早く辿り着きたい一心だった。
「郡山の郊外です。ご迷惑なら、どこで降ろして下さって結構です。後は何とかして帰ります」
女の言葉に、私は心底ホッとした。
そこは私の家へ帰る途中であり、それ程遠回りにはならないからだ。
「そんな泥だらけの喪服姿では、周りから怪しまれるだけです。通り道なのであなたの家まで送ります」
「ありがとうございます。でも、この泥だらけの喪服は、今までの私を葬った証しなんです」
女は、片方の頬で微笑みながら言った。
私は、また身体が震え出すのを止めることができなかった。