25.決別
「イザーク様!なんですの!この平民は!
私が正妻になっても妾としているくらいなら許してあげようと思っていたのに!
すぐにでも追いだして!」
「追い出す?まさか番を追い出せと言っているわけじゃないよな?」
「番とかどうでもいいわ。正妻の私が言うのだから、追い出して!」
私を指さしながら追い出せと叫んでいるミリーナに、イザークは首をかしげた。
何を言っているのかわからないというような顔で。
「俺は王女を妻にする気はないぞ?」
「え?」
「俺はもう結婚しているし、別れろと言われても拒否するぞ」
「どうして!」
「どうしてって、俺からしてみれば、どうして王女と結婚しなきゃいけないんだ?」
機嫌が悪くなったイザークは眉間にしわを寄せて聞き返したが、
ミリーナは胸を張って答えた。
「そこの平民の女よりも私の方が価値があるからよ!」
「価値?どこに?」
「王女だもの」
「そんなことはどうでもいいんだが」
「どうでもいいですって!?イザーク様は公爵なのよ?王族でもあるの。
そんなどこで生まれ育ったのかもわからないような女を妻にするなんて、
他の貴族たちから認められないでしょう」
それは間違っていない。エンフィア王国は身分制度がしっかりしている。
平民が貴族、ましてや王族でもあるイザークと結婚するなんて認めないだろう。
わかっているから、大丈夫なのか心配したこともある。
だが、イザークはそんなことは本当にどうでも良さそうだった。
「俺は他の貴族とは交流していないし、認めてもらわなくてもかまわん。
俺の臣下や領民たちはもう認めてくれている。
それに、王家以外の貴族家のほとんどから結婚の祝いの品が届いているけど」
「なんですって!イザーク様の結婚の公表なんてしていないのに、どうして」
「竜帝国の帝王が公表したからだろう。俺は竜帝国の王族でもあるからな」
「そんな……」
竜帝国が公表したとは思っていなかったのか、泣きそうになっているミリーナに、
まだ機嫌が悪そうなイザークは容赦なくとどめを刺しに行く。
「用が済んだのなら、もういいだろう。帰ってくれ」
「え。私はここに」
「残ってどうするんだ?侍女として働く気か?」
「は?」
「ここでは役に立たないものは必要ないぞ。
真面目に働くのであれば雇ってもいいが」
「……もう、いいわ!後悔しても遅いんだから!」
さすがに侍女として働けと言われてまで残る気はなかったらしい。
怒り狂ったミリーナは女官たちを引き連れて出て行った。
「公爵領を出て行くまで誰か監視をつけるようにしてくれ」
「わかりました」
指示を出しに行くのか、ダニーとデニーが応接室から出て行く。
あれだけはっきり断られたらあきらめるとは思うけれど、逆恨みはしてそうな気がする。
「もしかして、わざと怒らせた?」
「ああ。独立するにもきっかけが欲しいからな。
あれで国王が怒ってくれるはずだ」
「怒るかなぁ」
「ん?どうしてだ?」
「国王は子どもたちのことそんなに可愛がってないよ。
それに多分、正妻にとかいうのはミリーナが勝手に言ったんだと思う。
さっきのことは国王に報告しないんじゃないかな」
「そうなのか。まぁ、ラディアとの結婚だけでも、
きっかけになりそうだから大丈夫だろう」
「そうだね。いつ、王宮に行く?」
「すぐに出発すると、王女たちと会いそうだから一週間後くらいかな」
それから王宮に向けて出発したのは十日後だった。
なぜなら、ミリーナがなかなか公爵領から出て行かなかったからだ。
まだ正妻になるのをあきらめきれないのか、屋敷に来ようとしていたが、
イザークはミリーナの訪問を許可しなかった。
女官たちの説得に負けて帰って行ったのはいいが、
レオナの薬が無くなったせいでお金に困っていたのか、
王女たち一行は宿代を踏み倒して出て行ったと報告が来た。
代わりにイザークが払っていたが、このつけも王家に払ってもらわなくてはいけない。
「王宮に行く時、レオナは留守番?」
「どうして?」
「だって、さすがにレオナは王宮に行ったらまずいんじゃないの?」
髪と目の色が変わった私はミリーナにも気がつかれなかった。
だけど、レオナはそのままだ。王宮に行けば気がつかれてしまう。
レオナだとわかれば国王はレオナを捕まえようとするだろう。
ミリーナが来た時もレオナは会わせないようにしていたから、
屋敷で留守番するのだと思っていた。
「ふふ。大丈夫、なんとかなるわよ」
「本当?」
「ええ」
出発の当日、レオナの髪はばっさり切られていた。
「レオナの髪がない!」
「はは。旅の間は男に戻れば大丈夫だろう」
「そうだけど、もったいないなぁ。綺麗な髪だったのに」
「戻ってきたら、また伸ばすよ」
真っ赤な燃えるような髪が耳の上でざっくり切られていた。
化粧もしていないし、どこから見ても男性に見える。
男用の旅装束姿も似合うけど、なんだかレオナじゃないみたい。
そう思っていたら、レオナに頭をなでられる。
「俺はどんな格好をしていてもレオナだよ。
ラディアを守るためなら、髪くらいどうってことない」
「……うん。ありがとう」
「ラディア、レオナ。馬車の準備ができたようだぞ。
そろそろ行こう」
留守の間の話を使用人頭のカールと話してきたイザークが戻って来た。
レオナの姿に驚いていたようだけど、それについては何も言わなかった。
私とイザーク、レオナが馬車の中に乗る。
デニーとダニーは御者席へと座る。
今回は王宮で揉める可能性が高い。
そのため、護衛などは連れずに最少人数で行くことになっていた。
「では、行こうか」
「うん」
公爵領に来た時にはすぐに後宮に戻ると思ってた。
だけど、もう半年近くも戻っていない。
王宮に行くのはこれが最後になるかもしれない。




