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第90話 最後の因縁

「ウェルリン……思い出したって、ボクがしたことを……か?」


「ああ、そうさ……思い出したさ……。卑怯で汚いテメェにされたことをな……ッ! こいつのおかげで、ぜ~んぶきれいに思い出したよ」


 ウェルリンが口を開くと、怯えた様子の小さな小鬼──インプが、中から顔をのぞかせた。

 ウェルリンの眼光が、強く、鋭く光る。

 その憎悪に満ちた瞳の輝きに、ボクはウェルリンと初めて会った夜のことを思い出していた。


「ウェルリン、聞いてくれ。それには事情が……」


「かんっっけぇぇぇぇぇぇねぇ! ああ、関係ねぇなっ! テメェはっ! 自分が生き延びるためだけにっ! オレを洗脳してっ! 人間を殺させっ! スキルを奪いっ! そして、全てを忘れさせたっ! オレの、オレ様のッ……リサちゃんへの想いにつけ込んでなぁぁぁぁぁぁあッッ!」


 事実その通りだ。

 返す言葉もない。

 だからボクは向き合わなければならない。

 向き合う必要がある。彼、ウェルリンと。

 フィードではない、ボクが。アベルが。


「ああ、そうさ。利用した。利用させてもらったんだ。ボクが生きるために。そうしなければ生きられなかった。細い細い糸の上を気を張り詰めて歩き続けて、それでやっとここまでたどり着くことが出来たんだ。なんの言い訳も弁明もしない」


「テメぇ……この()に及んで開き直りかよ……!」


 パシッ。


 魔純水(エリクサー)の入った小瓶を投げ渡す。


「それを飲んだらキミのスキルは戻る。それで詫びにするつもりはない。なんの気兼ねもなく受け取ってくれ」


 キュッ──ポン。


 迷うことなく一気に飲み干したウェルリンは、毛むくじゃらな両足をダンッ! っと踏みしめると、大きく咆哮を上げる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ぉぉぉぉぉぉぉすっ! オレ様はァ! テメェを殺すぞ、フィード・オファリングっ! ここまでコケにされたとなっちゃ、ツヴァ組跡取りとしてのメンツも丸つぶれ。もう、オレがテメェを殺すか! それともオレが死ぬか! その二択しかねぇわけよ! それが極道として育てられてきたオレの生き様、宿命ってわけだ!」


「ああ、いいぜ。来いよ、ウェルリン。決着をつけよう」


 他に手段はない。

 ボクの選んだ道の結果だ。

 家を出たいと思っていたルゥ。

 そしてボクのことを好いてくれたリサ。

 二人は、自分からボクについてきてくれた。

 でも、ウェルリンは違う。

 彼は、ヤクザの跡取り。

 殺すか殺されるか。

 結局は、そういう価値観の中で生きる──魔物だ。


 彼の中のメンツ、任侠心、そしてボクへの恨み。

 そして、ボクが生き抜くために貫き通さねばならないエゴ。


 さけては通れない、この二者の対立。

 せめて、正面からぶつかろう。


 ダッ──。


 ゆらりと残像を残し、姿勢を低くしたウェルリンが地を這うように駆ける。


「──ッ!」


 予想外のウェルリンの動きに戸惑う。

 初見の相手だったら【軌道予測(プレディクション)】を使っていたかもしれない。

 でも、なまじ二人でスパーリングをつんでいたから。

 勝手に思い込んでいたから。


『ウェルリンなら、こんなもんだろう』って。


 スパーリングをしていた頃のウェルリンの直線的な動き。

 つまり、それ自体がフェイントとなり完全にボクの裏をかく。


「お、らァ──!」



 【身体強化(フィジカル・バースト)



(くる──! ウェルリンの関節を外した打撃──!)


 ボクは黒板消しの盾、パリィ・スケイルを構える。

 も──。


 くるんっ。


 ウェルリンはパリィ・スケイルを掴むと、関節を外した腕を鞭のようにしならせ、くるっと回転し、ボクの頭上に跳んだ。


(こっちの手が……読まれてる──!?)


 初めての、体験だ。

 ボクは今まで、自分よりも強い相手にどう戦うかばかりを考えてきた。

 でも、ウェルリンはボクのことを強者と思って対策を練ってきてくれた。

 たとえ、それが復讐のためだとしても。

 ボクを認めて。

 ボクのことを考えて。

 そして前よりも、ずっとずっと強くなって。

 チャレンジャーとしてボクに挑んできてくれている。


「──らぁッ!」


 天井を蹴り、拳を振り下ろすウェルリン。



 【高速飛行(スピード・フライト)



 ボクは上に飛んで攻撃を(かわ)すと。



 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【怪力(ストレングス)



 逆に超重量級の一撃を叩きつける。

 魔鋭刀をメリケンサックへと変えて。



 ドッ──ゴォ──ッ!



「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう……!」


 ウェルリンは、ボクの一撃を両手をクロスさせて受け止める。

 そして、衝撃に耐えるべくスキルを連打し始めた。



 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)



「ぐぁぁっぁっぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」


「やめろ、ウェルリンっ! それ以上は……!」


「……っるっせぇっ……ンだよぉッ!」



 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【身体強化(フィジカル・バースト)



「うわぐわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」


「ウェル……うわっ!」


 気がつくと。

 天井が、上になっていた。


「え……? 投げ……られた……?」


 背中に感じる地面の感触。

 ボクのレベル942479。

 体力5295660。

 無意識的に手加減してたとはいえ。

 ふたつのスキルを乗せたボクの攻撃を。

 魔神(仮)のボクの攻撃を防いだだけじゃなく。


 投げ……た。


「すごいっ! やっぱウェルリンはすごいよっ!」


 込み上がってくるのは、歓喜。


 ボクのこれまでの戦いは、ほぼ全てが圧勝だった。

 手こずったのは魔力が尽きたときだけ。

 それ以外は裏をかき、スキルを盗み、状態異常をかけ、とにかく生き残るためにリスクを減らして戦ってきた。

 だって一撃でも食らってしまったら、ひ弱なボクは死んでしまうから。

 でも、今や魔王(仮)というものになったボク。

 ステータスも人間だった頃とは桁違いだ。

 さらに、魔王や閻魔、古龍に二人のローパー女王のスキルまで取得している。

 強すぎる。

 あまりにも。

 人間の域も、魔物の域も、はるかに超えてしまっている。


(これからは、もう一生誰とも心の底から価値観を共有できずに死んでいくのではないか)


 そんな不安が心のどこかにあった。

 でも。


「ウェルリンっ! キミ、すごく成長してるっ!」


 あまりの嬉しさ。

 ボクは一人じゃなかった。孤独じゃなかった。

 神の域に足を踏み入れてしまったボクを投げ飛ばせるすごいヤツ。

 それが、ボクのスパーリングパートナー、ウェルリン・ツヴァだ!


「るせぇぇぇぇぇぇっっ! 黙れよテメェっ!」


 苦しそうに頭を抱えるウェルリン。


 そりゃそうだ。

 あれだけいっぺんにスキルを重ねたんだ。

 きっと消耗しきってるはず。


「ウェルリン、今、魔純水(エリクサー)を……」


「いらねぇ! 一本はオレのスキルを奪ったテメェからの(すじ)ってことで受け取ったが、二本目は、お情けじゃねぇか。そんなもんは受け取れねぇし、受け取らねぇ。オレ様の仁義にかけて、受け取るわけにはいかねぇんだよぉぉぉぉぉぉお! あおぉぉぉぉぉぉんっ!」


 ズズズズッ……!


 ウェルリンの遠吠えに応えるように、狼の体が黒い影に覆われていく。


「──っ! これは──!?」



 【鑑定眼(アプレイザル・アイズ)



 名前:ウェルリン・ツヴァ

 種族:狼男

 レベル:26

 体力:38916

 魔力:18992

 スキル:【超身強化(アバター・モード)



 超身強化(アバター・モード)──?

 ウェルリンのスキルは【身体強化(フィジカル・バースト)】だったはずだ。それがどうして……。


 ふと、二千年前の鑑定士ネビルの言葉が脳裏をよぎる。


『スキルは重ねれば、上位スキルへと進化する』


 まさか……。

 重ねたってのか。

 自分で。

 すごい……本当にすごいよ、ウェルリン!

 ヒントを貰ってたボクですらたどり着かなかったところに、何のヒントもなくボクより先にたどり着くなんて!


 やがてウェルリンを覆う黒い影は、彼の体を覆い尽くす。

 鋭く長く尖った鼻先。

 丸く覆われた頭部。

 まるで大型の鳥かのような、流線型の黒い鎧。

 ウェルリン・ツヴァが新たな外装を獲得し、さらに低く、低く構える。


(空気抵抗を極限まで少なくするフォルム。スピードで超えてくるつもりか、ボクの【軌道予測(プレディクション)】を。に、しても……まるで巨大な鷹のような姿……なんというか、シンプルに……美しい……)


 思わずその機能美に見とれていると──。



 ドカァ!



 ボクの横の壁に穴が空き、もぐら悪魔のグララが飛び出してきた。


「邪魔だっ!」

「手ぇ、出すんじゃねぇっ!」


 ボクの魔鋭刀。ウェルリンの裏拳。



 ボグォッ!



 息の合った二人の攻撃が、同時にもぐら悪魔の顔面を捉える。


「ぐらぁ~! 痛いぐらぁ~! グララ、よかれと思って助太刀したのにぃ~! ヒドい扱いぐらぁ~!」


 顔を押さえて半泣きで下がっていくグララ。


「そんな……! グララは、わがはいのつくりし、けっさくのひとり……。それを、あんな赤子の手をひねるかのようにいなす、だと……!」


 テスが信じられないと言った表情でつぶやく。


「よぉ~、フィード? 次で(しま)いにしようや。あんまり長引かせても上まで戻る時間がなくなるだろ。オレらの遺恨(いこん)と、他の連中の命は関係ねぇからよぅ。……あのオルクってやつの侠気(おとこぎ)にも応えてやらなきゃいけねぇしな」


 オルク。

 ボクやパルたちと一緒にダンジョンに巻き込まれ、一緒にダンジョンの中を駆け抜けたオーク。途中で別れてしまったが、愉快なやつで大事な仲間だった。ヌハンたちから、オルクがリーダーとしてみんなを率いて立派にもぐら悪魔と戦ったと聞いていた。なんとそのうえ、ウェルリンにも侠気とやらを認めさせていたのか。オルク、すごいやつな、キミも。


「同意だな。次で終わりにしよう」


 静かに答える。


 そうだ。

 ウェルリンとボクとの因縁。

 これに決着をつけて、みんなを救う。

 それがボクの使命であり、ボクがボクであるための指針だ。


 ウェルリンが低く構える。

 ボクもグローブへと変えた魔鋭刀を構える。


 ウェルリン……。

 彼の以前の魔力は、満月のピーク時で一万を超える程度だったはずだ。

 今は、月も欠けていてるはす。

 しかも、ここはダンジョンの中。

 なのに。それなのに。ウェルリンの魔力は18992。


「ほんとうに……頑張って鍛えたんだな、ウェルリン」


「ああ、テメェを殺すことだけを考えてな。テメェはオレが超えなきゃいけねぇ壁なんだ。だから、絶対に、ここで……殺す!」


「ならば、ボクはこれで応えよう」



 【勧悪懲善(プロモート・イビル)

 【軌道予測(プレディクション)

 【暴力ランページング・パワー



 体の奥底から暴の衝動が湧き上がってくる。

 状態異常や即死、ハメ技、小細工は使わない。

 ボクのこれまで培ってきた、この三つのスキルで迎え撃つ。

 それが、ボクなりの彼への誠意だ。


「てめぇ……! その雰囲気、まさかルートォンの……!」


「ルートォン……ルートォンというのか。あの老トロールは」


 ギリッ──!


 火花散るような歯ぎしり。


「ああ……オレの最初の憧れの人だ……。そして、二番目に憧れた存在……テメェを、フィードを殺して、オレは憧れの存在をまとめて超えるッ!」


「──! ……ああ、こいよ、ウェルリン。どっちの悪が上で、どっちの暴が上で、そしてどっちのスキルが優れてるか決着つけようじゃないか」


 ウェルリンの体がドクンと跳ね上がる。


「ぐ、おぉぉぉぉぉぉおッ! 行くぜいくぜイクぜいくぜッ! 穿(つら)け、穿(うが)て、撃ち抜け、突き刺せ、押し通せッ! ヤツの土手っ腹に風穴あけろッ! 越えろ、音速ッ! 【超身強化(アバター・モード)】! モード:シャドウ・ホーク!」



 □ まっすぐ直線に飛んでくる。

 □ 腹に右ストレートパンチ。



 ボクの見た未来の軌道。

 なんでもありの喧嘩殺法【暴力ランページング・パワー】が地面を蹴り飛ばし、粉塵を巻き上げ、先手を打つ。


 ドゥ──ッ!


 砂埃に包まれたウェルリンが地面を蹴る音。

 大丈夫だ、軌道はわかってる。

 飛び出してくるタイミングも砂埃の動きでわかるはずだ。

 あとは、暴の衝動に従ってカウンターを入れるだけ。

 もし、ボクの抱えてる「悪」が、ヤクザの跡取りウェルリン・ツヴァの抱えている「悪」より大きければ、それでボクの勝ちだ。


 そう考えを巡らせていた時。

 腹の前に構えていたパリィ・スケイルに圧がかかっているのを感じた。


(え……? なんで……? だって、まだ土埃は……)


 グググ……パリィン!


 パリィ・スケイルが、かけられた圧に耐えきれず粉々に砕けた瞬間。

 土埃に穴が空き、ウェルリンの()()()()()()()()が出来た。


(これは……速すぎて空気の流れよりも早くボクに届いたってことか……!)


 なんという執念。

 なんという一念。

 これが、ウェルリン・ツヴァという男に秘められた底しれぬ力(ポテンシャル)


 だが──。


 放たれたウェルリンの拳。

 それがボクの胴に届こうかという、その刹那。

 

 相対したものよりも悪であれば必ず勝つスキル。

 根源たる暴力衝動が湧き上がり、実行できるスキル。

 この二つのスキルによって、ボクの体は自然と動いていた。


 未来の軌道を読むスキルで視た、ウェルリンのアゴの位置。

 そこ目がけて──。



 スパンっ──!



 鎧の上からでも、()()()()()()()()()


 ぐらり──。


 ウェルリンは倒れそうになるも足を踏みしめ、なんとか気合いで踏みとどまる。


「ぐっ……これじゃ、まるで……」


 そう、まるで。


「ボクたちの、初対面の時みたいだね」


「くそが……結局オレはあの時から、お前に負けっぱなしだってのかよ、フィード……」


 ガッ……。


 崩れ落ちるウェルリンの肩を、抱き止める。


「いや、キミは閻魔よりも魔神サタンよりも強かったよ」


「はぁ……? 閻魔? 魔神? テメェ、なに言って……」


「ああ、オレ、いま魔神(仮)ってのになってるんだ」


「あぁ? かっこかり……? 寝ぼけたこと言ってんじゃ……」


「あっ、そうだ! 地獄でツヴァ組の人たちがいたから生き返らせたよ! 七人!」


「……! 名前は……!?」


「名前は覚えてないけど、若頭? って人以外の全員らしいけど。そこのもぐら悪魔に殺されたんだって」


「グララァ……! てんっめぇ~……!」


「あわわ! 知らんグラ! グララ覚えてないグラ! ほんとグラよ~!」


「……ったくよぅ……。ハァ……ってことは、もう……とっくにお前は、オレへの不義理を恩で返してた、ってわけか……」


「返せたのかな? わからないけど、組員の人たちは、いま上層階のトラップの処理に向かってもらってる。だから、キミは彼らに顔を見せてあげなくちゃいけない。死んだりせずに、ね。あ、それからキミが手にかけた元インビジブル・ストーカー。彼も地獄で会ったから、今は生き返ってるよ。彼も上にいる」


「あぁ……くそ……っ! なにから何まで完敗、ってことかよ……。ああ、マジですげぇやつだよ、お前は。ムカつくけど。オレじゃ全然歯が立たねぇ。……今は、だけどなっ!」


「そんなことない。ボクは、キミがいたから強くなれたんだ、ウェルリン」


「オレだって、てめぇをぶちのめしたい一心で強くなったんだ」


 僕の肩に寄りかかったウェルリンの元へ、リサが魔純水(エリクサー)を持ってくる。


「ほら、これ飲みなさいよ」


「リサちゃん……オレのために……?」


「勘違いするんじゃないわよ! あんたにさっさと立ってもらわないと、時間内に戻れないからに決まってるでしょ!」


「ハハ……そうだよな……こんな負け犬、負け狼に情けなんかかけてくれるわけないよな……」


「言っとくけどっ!」


 リサの強い声。

 手渡された魔純水(エリクサー)を飲み干したウェルリンが目を丸くする。


「ほえっ!?」


「私は、たぶらかされてるわけじゃなくて、フィードのことが好きだから一緒にいるの! フィードのことが好きだから人間になったの! だからっ! 勘違いしてこれ以上フィードに迷惑かけるのはやめてっ!」


 リサの突然の告白を聞いたウェルリンは肩を落とす。


「ハハ……ッ。そりゃそうだよな……。わかってた、なんとなくはわかってたよ。認めたくなかっただけだ。けど、やっとわかったよ。今のオレじゃあリサちゃんを振り向かせられなくて当然だ。……だからっ! フィードが魔神? になったんなら、オレ様はさらにその上の超神にでもなってやるよ! そんで、改めてリサちゃんを振り向かせてやるぜぇ!」


「うん、ウェルリンならなれるよ!」


「あぁ? フィード、てめぇ、なに適当ふかしやがって……」


「ふかしてなんかない。だってキミは魔神(仮)に一撃入れた魔物なんだ。パリィ・スケイルを砕いた唯一の魔物なんだよ。さっきも言ったけど、キミは本当に閻魔や魔神より強い!」


 ウェルリンは一瞬ポカンとした顔を見せた後、額を押さえて笑い出した。


「ククク……アーッハッハッハッ! そうだな、オレ様は魔界のマフィアを統一する次代のツヴァ組頭領ウェルリン・ツヴァだ! 魔界を統一して、ローデンベルグファミリーも傘下に収めて、実力で手に入れてやんよ! リサちゃんが人間界に行くってんなら、人間界も手に入れる! あぁ、そうさ、それがオレ様だ! 欲しいものはどこまでも追いかける! 魔界一欲深い男、ウェルリン・ツヴァ! それがオレ様だぜっ!」


 どこか吹っ切れた様子で雄々しく声を上げるウェルリン。


「まっ……、あんたも前ほどはキモくはなくなったみたいだから……」


 次のリサの言葉を聞いたウェルリンは、思わず飛び上がる。


「友達くらいには……なってあげてもいいわよ」


「ほ・ほ・ほんとにぃ~~~~! うぉぉぉぉ! オレの想いが通じた! これでまたリサちゃんになじってもらえる! あおぉぉぉぉぉぉぉんっ!」


「ちょっ! やっぱキモいっ! さっきの取り消しっ! もう二度と私の目の前に姿を現さないでっ!」


「そ、そんなぁ~~~~~!」


「アハハハ!」


 ボクとルゥの笑い声が響く。

 まるで深夜の学校で過ごした、あの時間が戻ってきたみたいな。

 思ってもなかった。

 また、もう一度。

 こうやって、四人で笑い合える日が来るだなんて。


 残るは、『本物の扉』から出るのみ。

 ボクたちは五十階層、最後のトラップを発動させると、二十五階層に向かって進み出した。

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