第72話 本当の強さ
スキルで空を飛んで宙から眺めると、また違った戦況の様子がわかってきた。
まず巨人。
ドリルを叩き落とすことだけを目的に作られているので、あるのは二本の腕と頭、そして胴体のみ。
その頭の部分から、紅白水玉スーツの大悪魔が上半身をにょきっと出し、∞の弧を描くように旋回して襲いかかってくるローパードリルを払い落とそうとしている。
ちなみにオレの【高速飛行】は文字通り「速く飛ぶ」スキルなので、一箇所にホバリングすることは出来ない。
なので、オレは巨人とローパーの周りをぐるぐると、獲物に目をつけたコバエのように飛び回っている。
そして、オレからの即死スキルの射線を塞ぐために、オレの旋回に合わせて大悪魔が目隠しとなる壁を周囲にぐるぐると生成し続けている。
端から見れば、多分めちゃくちゃシュールな光景。
だが、各人が出来ることをやってる結果がこれなので、シュールだろうとなんだろうと仕方がない。
「マズいな……」
どんどん巨大化し、大悪魔を削りまくってたローパーたちの組体操ドリルだが、もう新たに加わる者もほとんどいなくなってしまった。
それどころか、魔力を使い果たしてドリルからボロボロと落ちていくローパーたちも増えてきた。
一方、大悪魔の方は魔力とは別の理で壁を生成しているようで、いまだに衰える気配がない。
「となれば、狙うは敵の頭」
【透明】
【身体強化】
【怪力】
【斧旋風】
透明化して直接本体をぶっ叩く!
ビュウゥゥゥゥ!
風を切り、ハンマー魔鋭刀で死角から大悪魔の本体目掛けて振り下ろす。
ドバッコォーン!
やった──! 大悪魔をぶっ倒した!
と思いきや。
背後からヌッ──と大悪魔が生えてきた。
「ギャハハっ! 貴様が叩いたのは壁で作った吾輩の彫刻っ! 吾輩は頭もいいうえに、こぉ~んな機転まで効いちまう! あぁ、吾輩は自分の才能が怖いッ!」
額に手を当てて嘲笑う大悪魔。
「ハッ、油断したな。オレの前に姿を現したのが運の尽きだ、くらえッ!」
【死の予告】
【石化】
「うおっ! うおうおッ!」
ザンッ! ザンッ! と壁を作り出して射線を塞ぐ大悪魔。
「まだまだぁっ!」
【毒液】
【嘶咆哮】
【邪眼】
【投触手】
「くっ、くそっ! 鬱陶しい! こうなったら、捻り潰してくれるッ!」
ローパードリルと戯れていた両手が、オレに向かってグググ……と伸びてくる。
オレは、それを直前まで引き付けると。
【高速飛行】
宙に逃れ、ローパードリルに向かって叫ぶ。
「今だ! やれ、プロテム! 胴体が、がら空きだ!」
ブルルルルル……!
オレの声に応えるように旋回して戻ってきたローパードリルが、大悪魔の岩壁巨人の腹を貫く。
グギャギャギャギャギャギャ!
「やった! モロよ! 直撃っ!」
狙い通り。
オレが大悪魔の注意を引き付けて、本命のローパードリルが本体を破壊。
相手がてんやわんやになってるうちに、本体の大悪魔をオレが石化魔法で固める。
石化はオレも食らったことがあるが、イコール即死ではない。
大悪魔を殺すとダンジョンが崩壊してオルク達が死んでしまう。
だから、石化した後に内蔵と呼吸器だけ石化を解除するとかして、どうにか出来る可能性にかける。
でなきゃ、このまま無限の物量に押し切られて終わりだ。
慌てふためいているだろう大悪魔を探す。
どこだ? どこにいる?
この隙に、お前を仕留めてダンジョンのトラップを解除してやるぞ。
が。
なにかが、おかしい。
巨人が──崩れない。
ギュルル……ル……ルル…………。
ドリルが止まっている……?
巨人の中からヒョコッと頭半分だけを出して様子を伺った大悪魔が高らかに笑う。
「くくくっ……ギャーハッハッハッ! ついに力尽きた! ローパー!(笑) ローパーだから!(笑) しょせんは低級モンスターのローパー!(笑) ギャハハっ! 低級が何百匹集まろうが、しょせんは低級! 高貴たる上位たる優美たる、このっ! 吾輩の足っ元にも及ばないゴミ! そう、ゴミ! ゴミなのだ、お前らは!」
「ゴミなんかじゃない!」
オレは知っている。
どんな苦境の中でも挫けなかったパルの強さを。
オレは知っている。
全智のスキルを持ちながらも決して驕らず、仲間たちの安全と未来を守り続けてきた真に高潔なポラリス女王を。
オレは知っている。
姫を助けようと、一身に忠誠を尽くすプロテムを。
オレは知っている。
完璧に仕事をやり遂げる女中ローパーたちのことを。
明るくオレたちを迎えてくれたララリウムの民衆のことを。
素晴らしい文化と技術を持つ彼らのことを。
そして、今、国を守るために一丸となって立ち向かっている彼らのことを。
「ゴミなのは、人よりも優れた力を持ちながら他人を貶し、貶め、尊厳を踏みにじるお前の方だ。大悪魔──テス・メザリア」
キョトンとした顔でオレを見つめる大悪魔。
「? 吾輩が? ゴミ?」
前の大悪魔、シス・メザリアが若かったらこんな風貌だったかもしれない。前髪を上げたモシャっとした金髪。人間世界だったら面のいい方に勘定されるだろう。ただ、それだけに、このとぼけた子供じみた反応がオレをいらつかせる。
「ああ、ゴミだ。お前の考えてることは、いつも自分のことだけ。自分、自分、自分、自分、自分。どこまで行っても、お前の世界には自分だけ。仮に何千年生きようが、魔界を統べようが、お前は永久に一人ぼっちのままだ。見てみろよ、あのローパーたちを。みんなで手を取り合って、敵に立ち向かってるんだ。相手が自分よりも、はるかに強い相手でも。はるかに強大な敵でも。これが勇気、これが本当の強さだ。お前には一生かかっても理解出来ないものだろうな、惨めなゴミ大悪魔──テス・メザリア」
(何ごちゃごちゃ御託を述べてんだ!)
(今のうちに、さっさと石化しちまえよ!)
そう叫ぶオレの中のフィードの声を、オレは無視する。
これだけは、どうしても言っておかなければならなかった。
パルと過ごし、ここで過ごした時間。
それを馬鹿にされるのは──。
許せない。
オレが怒りを込めてキッと睨みつけると、大悪魔はわなわなと震えだした。
「な、ななな、なんだよ、なんだとなんだと! この人間風情が! 吾輩に説教! どどどど、どのツラ下げて! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ムカつく、ムカつく、ムカつくぅぅぅぅ! こんな屈辱恥辱侮辱! あああああああ! ゴミゴミゴミゴミゴミゴミ! こうなったら、まずはッ! ゴミのローパーから先に始末してあげまっしょぉぉぉぉぉぉぉうッ!」
ガッ!
巨人の両腕が腹にめり込んでいるローパードリルを取り出すと。
「そんなに掘りたいのならッ! 地面の下で一生掘ってなさぁいッ! 三下低級の雑魚がァ~~~~~!」
切っ先を下に向け、思いっきり地面に叩きつけた。
ドガァーーーーーン!
「キャッ!」
激しい振動が辺りに広がっていき──。
ボロッ──。
地面に、大きな穴が空いた。
深い。
大悪魔の巨体がまっさきに穴の中に落ちていく。
穴の端では、プロテムが触手を伸ばして、穴に落ちていく仲間たちを助けている。
【高速飛行】
【怪力】
オレもすかさず穴の中へ飛ぶ。
相当に深い穴だ。漆黒の闇に覆われていて底が見えない。
目を凝らして、落下しているローパーたちをどうにか受け止めると、そのまま上昇して地上に送り届ける。
隣では、プロテムが苦しそうに体の半分ほどを崩しながら触手を穴に垂らしている。
どうやら、文字通り自らの身を削って触手を伸ばすことが出来るようだ。
オレは再び穴の中へと飛ぶと、プロテスの触手を手繰ってきていたローパーたちを引き上げた。
「これで、全部か……」
息も絶え絶えに、ぺこりと頭を下げるプロテム。
こんなに素直なプロテムも珍しいな……。
仲間のことがそれほど大事だったのか、それとも。
もう限界を超えて消耗しているのか。
それもそうだ。
ずっと、あの巨大ドリルの先端として大悪魔を削り続けてきてたんだ。
プロテム。
固く短い触手と柔く長い触手を使う、国に尽くす忠義のローパー。
改めてローパーという種族に敬意を感じる。
「フィード!」
リサ達と、アルネを乗せたケプも走り寄ってくる。
「ああ、」
大悪魔だけが落っこちてくれて助かったよ。
そう言おうと思った瞬間。
ガシッ!
……ん? うわぁっ!
穴から伸びてきた細い壁の手に足首を掴まれ。
穴の中に引きずり込まれた。
パシッ!
プロテムの触手がオレの手首を掴む。
(ダメだ、プロテム! それじゃ、お前まで……!)
だが、その声を発する暇もなく。
オレたちは、
落ちて。
落ちて。
落ちていった。
文字通りの。
奈落 へ と 。




