第58話 響け、シンバル!
【二十四階層】
右手にサキュバスのサバム。
左手にスキュラのキュアラン。
それぞれが、オークのオルクの両腕に抱きつき、ギュウギュウと体を押し付けてくる。
「あの、ちょっと、そんなにくっつかれたら歩きづらいんだけど……」
おかしなことになってる。
笑気ガスのトラップ以降、完全にリーダーとして祭り上げられてしまっている。
リーダーっていうかハーレム?
モテ期到来?
以前のオレだったら、諸手を挙げて大歓迎してたかもしれないこの状況だが……。
今のオレの頭の中にあるのは、間違いなくすぐに訪れる、リーダーとしての地位の崩壊だった。
これまでは、たまたまたどうにかトラップの数々を乗り越えてこられただけで、絶対にすぐボロが出る。
最悪、誰か死ぬ。
いや、全滅だってありうる。
さっきの笑気ガスの時だって、一歩間違えば全滅してた。
その時に向けられる失望の目線、蔑みの瞳、軽蔑の表情──。
それが、ありありと想像できてしまう。
もう、うんざりだ。
誰かに勝手に期待され、勝手に愛想を尽かされるのは。
オレはただの豚人間だ。
しかも、今はスキルすらない。
やめてくれ、オレに期待するのは。
オレを持ち上げるのは。
オレは主人公でもなければ、特別な存在でもない。
だから。
やめてくれ。
オレに、責任をなすりつけようとするのは。
「きゃっ!」
「リーダー?」
むんずと二人の肩を掴んで腕から引き離すと「危ないから……」と言い、床を調べる。
コンコン……と叩き、スッと頭を後ろに反らすと、そこを壁から放たれた矢がビュンと通り過ぎていく。
「リーダー、私達のことを気遣って……!」
「リーダー、さすが……!」
もう何度目かになる。
同じタイプのトラップだ。
いやでも覚える羽目になる。
といっても、ずっと先頭を歩いてるのはオレだから、自ずと全部オレが一人で覚えて、一人で解除してるだけなんだが……。
当たり前のことをやってるだけなのに、みんなからは熱視線を向けられてて、とても気まずい。
「ま、大したことないから……」
本当のことを言ってるだけなのに。
「そういう謙遜するところ、好きだぜ!」
「どうやらオルクは、人間も出来てるようだ……」
「くくく……それでこそ我らがリーダーに相応しい……」
勝手に勘違いして、持ち上げられる。
エンドレスにこんなサイクルが続いてる。
そもそも。
新しい大悪魔とのゲームの契約を結んだのはオレ、フィード、リサ、ルゥの四人だけだ。
だから今、このパーティーの中で三日以内に出口を見つけなきゃいけないと焦ってるのはオレだけ。
そりゃ意識も違う。
誰も先頭歩かないなら、オレが歩くしかねぇだろうがよ。
別に、こいつらは三日過ぎても死なないからな。
オレは死ぬだろ、多分。
悪魔の契約とか言ってたからな……うん……。
ヤバいな……失敗したかも……オレもフィードの方についていくべきだったか……?
……ォ……。
「あれ、なんか……音、聞こえない……?」
「そういえば、なんか揺れてる……?」
サバムとキュアランが不安そうに体を寄せてくる。
……ォン……。
ドォ……ン……。
ドォン……。
ドォン……!
ああ、嫌な音だ……。
束の間だったオレのリーダーとしての地位が粉々に打ち砕かれる音。
こんなの……フィードが壁ぶっ壊してた時くらいの衝撃音じゃね~か……。
そんなのが今、目の前に現れても何にも出来やしね~ぞ、オイ……。
ドォォォォン!
ドゴォォォォン!!
ドゴォォォォォォォン!!
「上だ! 上からくるぞっ!」
頭が三つ、耳が六個あるケルベロスが叫ぶ。
上……。
くそ……一体、なにが下りてきてるってんだ……。
ああ……もう好きにしやがれ、こんちくしょう!
と、投げやりな気持ちになったものの。
隣でオロオロしてる女たちやクラスメイトの姿を見てると「嫌でもやんなきゃいけないよな……」という気持ちが、ほんの少しだけ湧き上がってくる。
ドンッ!
サキュバスとスキュラを後ろに突き飛ばす。
「ライマ、ヌハン、ルベラ、ガイル、ロンゾ、ヘイトス、前に来いっ! 何が下りてきてんのかわかんねぇけど、とりあえず、デカくて硬いオレたちで初撃を受け止めっぞ!」
「お、おう……」
「ぬぅ……承知……」
「わ、わかった……」
キメイラのライマ、デュラハンのヌハン、ケルベロスのルベラ、ガーゴイルのガイル、タロスのロンゾ、ケンタウロスのヘイトスが緊張した様子で前へ出てくる。
ドゴォォォォォォォォン!!
ドゴォォォォォォォォォン!!!
「それからゲルガ、ミックはオレの横に。いつでもスキルを使えるようにしといてくれ」
ドッペルゲンガーのゲルガ、ミミックのミック。
この二人の擬態と変身スキルがオレたちの生命線だ。
ドゴォォォォォォォォォォォン!!
ドゴォォォォォォォォォォォォン!!!
パラパラと天井から石片が落ちてきている。
「他の奴らは退路を確保! 最悪の場合は逃げろ! 全滅だけは避けるぞ!」
「は、はい……!」
ドッガァァァァァァァァァァァァァン!!!
「くるぞっ! 構えろ!」
くそ……フィードに渡された蟻の前脚で作った槍。
あれを、カッコつけて投げ捨ててくるんじゃなかった……!
土埃の中、現れたのは──およそ身長三メートル、横幅一メートルの巨大なもぐら。頭に丸いサングラスを乗せ、目を細めてオレたちを見下ろしている。
「も、もぐらぁ──?」
一瞬、呆気にとられてしまった。
「グラっ! グラララ! たくさん♪ お土産たくさん♪ ひーふーみー……あれ? 何人かヤバいスキル持ってそうな種族が……ホイっと」
【土竜投擲】
ヒュ──。
プシャッ──。
「………………は?」
早すぎて見えなかった。
投げた? 何かを?
振り返ると、コカトリスのトリスの頭が粉々に弾け飛んでいた。
「グラ♪ 次は、こいつグラ♪」
【超削岩】
ズドドドドドド!
もぐらは丸くなると、デュラハンのヌハン目掛けて突っ込んでいった。
「ヌハンっ! 逃げ──!」
ジャカジャカジャカジャカジャカ!
巨大モグラの爪によって、強固なデュラハンの鎧が飴細工のように簡単に引き裂かれていく。
「や、やめ──!」
「やめ? やめ……なにグラ? もしかして命令グラ? グララに命令しようとしたグラ? グララに命令していいのは眷属たるグララの主、デーモンロード様だけグラ」
「デ、デーモンロード……!? こ、このもぐら、もしかして五百年前にデーモンロードに仕えるために人間界に行ったっていう……もぐら悪魔の……」
タロスのロンゾが呟く。
もぐら悪魔……そういえば、先生が前、なんか言ってたような……。
っていうか五百年以上生きてて、上位悪魔の眷属になってるイレギュラー悪魔かよ……!
しかもスキルを二つも使いやがった。
どういうことだ、スキルは一人につき一つのはず。
こいつも……フィードみたいにスキルを吸収したり出来るってことか……?
「グラ♪ グララ有名♪ きっと有名になったグララを家族も喜んでくれるはず♪」
馬鹿みたいにぴょこぴょこ跳ねて踊るもぐら野郎。
「おい、ヘイトス、もぐら悪魔のことなんでもいいから教えろ。それからゲルガ、ミック……」
もぐら野郎に気づかれないよう、小声で作戦を立てる。
「グララ♪ だ・れ・を・お・土・産・に・し・よ・グ・ラ・な?」
一人ひとりを邪悪に尖った爪で指しながら選んでいくもぐら。
「今だ、ゲルガ!」
にゅるりとドッペルゲンガーが膨れ上がり、目の前のもぐら悪魔と同じ姿に変化する。
「グラ!? だれグラ、このイケメン!?」
もぐら悪魔が気を取られてる間にミミックに指示を出す。
「ミック!」
どろりと銀色の液体へと溶けたミックがシンバルへと変化し、けたたましく鳴り響く。
シャァァァァァァァァァァァァァン!
密閉された通路の中を、幾重にも音が反響する。
「グ、グラララ……目が……いや、耳が回る……グラ……」
目が退化してる分、耳で周りの状況を把握しているもぐらの特性を突き、ダンジョンに反響する音で混乱させる。
「今だ! 全員逃げろっ!」
その隙に出来ること。
逃亡。
相手は五百年以上生きてる上位悪魔の眷属だぞ?
しかも地中でもぐらと戦うだなんて条件が悪すぎる。
逃げだ、逃げ逃げ。
こんなん、オレの手に負える相手じゃねぇ。
トリスにヌハン、もう二人殺された。
オレに出来ることと言えば、どうにか一人でも多く生き残らせることだけだ。
シンバルになったミックを両手に持ち、もぐら悪魔に立ちはだかる。
隣でもぐら悪魔に変身したドッペルゲンガーのゲルガが震えてる。
あ~、たしかデカくなっても元の質量は変わらないんだっけか?
気も小さいし、このまま居ても戦力にはならないか……。
「ゲルガ、よくやった。お前も逃げていいぞ。後はオレに任せろ」
「す、すまねぇ、リーダー……!」
ゲルガはケルピーの姿へと変身すると、体をくねらせながら、ぬるぬると滑るように後ろに去っていった。
「さぁて……やりますかね、上位悪魔の眷属さん……」
気は進まないが仕方がない。
ここで死ぬのがオレの天命だったんだろう。
クラスメイト達を助けるべく、殿を務めて死ぬ……か。
ま、オレにしちゃ上等じゃね~か?
ただの豚人間が、ここまでカッコつけられたんだ。
ミノルやオガラの顔色伺って、メデューサのデュドにシバかれたりしてたあの頃と比べれば、ずいぶんマシな最後だ。
「ミック、いざとなったら小さいもんに擬態して隠れてろ。あいつアホっぽいから気づかないだろ」
ブルブルと手に持ったシンバルが震える。
「グラ? グラグラグラ? アホ? グララのことアホって言ったグラ?」
「ああ、言ったぜ。意味なく魔物を殺しまくる頭のおかしいクソ悪魔ってな」
「グラ、グラララララ~! 許さんグラ! この偉大なるグララ様を侮辱するなんて、即刻死刑に処されるべきグラっ!」
シャァァァァァァァァァァァァァン!
「グラぁ~! うるさいグラ! それやめろグラ! 具合悪くなるグラ~!」
「ああ、そうかい。そりゃよかった。もうオレには、これしか残されてないんでね。お前が嫌になって逃げ帰るまでは鳴らし続けてやるよ」
連続でシンバルを鳴らし続ける。
「グラぁ~~~~~! うるさいうるさいうるさい! もうやめるグラぁ~!」
もぐら野郎が右手を振りかぶる。
早い──! もう今からじゃ避けきれねぇ──。
ああ、死ぬかも。
死ぬ。
終わりだ。
どうか──みんな──せめて一人でも生き延びてくれますように────。
そう思って目を閉じた瞬間。
「あちちっ! 熱い! 熱いグラ!」
「うおおおおおおおおおおお!」
スキル【発熱】によって体を高温にした青銅人間タロスのロンゾが、もぐら悪魔の腹にしがみつき、がぶり寄っていた。
「ロンゾ!」
「スキル持ってるオレが逃げる訳にはいかないでしょっ! それに、いくら上位悪魔が相手だろうと、熱いのはイヤなはず……ぐっ!」
ダンッ!
壁に叩きつけられて、タロスの体が欠ける。
グワァ~ン!
動く石像、ガーゴイルのガイルが、空中からグララに頭突きを見舞わせる。
「ガイルも!」
「オレは大したスキルはねぇけどよ~、まぁ一応まだスキル持ってる者として、なんとかやってみるわ。なんとか出来る気しね~けど」
「グララ……頭がグラグラ……グラグララ……」
フラフラと揺れるグララの両腕にキマイラとケルベロスが噛みつく。
「ライマ! ルベラ!」
「グルルル……! 百獣の王を身に宿せし我、もぐらごときを相手に逃げ出すわけにはいかぬ!」
「スキル奪われて炎は吐けねぇが、頭数は多いほうがいいだろ、文字通りな!」
キマイラのライマはライオンの上半身と尻尾の蛇で、ケルベロスのルベラは三つの頭でもぐらに食らいつく。
「グラぁ~~~! 雑魚魔物ども~! うっとうしいグラぁ~~~!」
グララはブルンブルンと腕を振り、二人を吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
「ぐぁっ!」
ヤバい。
あれがくる。
コカトリスのトリスを一撃で殺した、見えない攻撃が。
「オルク、鳴らせ!」
ケンタウロスのヘイトスの声。
シャァァァァァァァァァァァァァン!
「グラッ……!」
ドガァン……!
体勢を崩したグララから放たれた何かが、天井に穴を開けてる。
「ヘイトス、戻ってきたのか!」
「ああ、参謀は必要だろう? それに、あの攻撃……おそらくは高速で回転しての投石。目潰しならぬ、耳潰しで十分に対応出来るはずだ。それに……」
「うおおおおおおおお!」
立ち上がったタロスが、全身を高熱で纏って再び掴みかかる。
「ロンゾとガイルの重さが五百キロずつ。ライマとルベラが、それぞれ二百キロ。合わせて一トン以上の魔物にぶら下がられるんだ。いくら上級悪魔とはいえ、堪えるはず。そこに……」
パカラッパカラッ……。
ドガッ!
ケンタウロスのヘイトスが、後ろ足でグララの股間を蹴りつける。
「────ッ!!」
たまらず悶絶するグララ。
「これは……もしかするとオレたちだけで殺れちまうんじゃねぇか……?」
「いや、相手は悪魔。半分概念に足を突っ込んでる連中だ。物理攻撃だけで倒すことは不可能だろう」
「え、でもフィードは……」
大悪魔の先生を殺したじゃねぇか。
そう言おうとしてハッと気づいた。
魔鋭刀。
そう呼んでいた、あの武器。
たしか魔王の爪……とか言ってなかったか?
そういった武器さえあれば、倒せるってことか……。
!
「壁だ! 壁に叩きつけろ!」
壁。床。天井。
これは大悪魔の体の一部のようなものだったはずだ。
なら──。
そこにぶつければ、同じ悪魔族同士、ダメージが通るんじゃねぇか?
「うおおおおおおおお!」
ドガァ!
ロンゾが毛を掴んだまま、グララの体を壁に押し付ける。
「グラハッ──!」
痛そうにうめき声を上げるグララ。
「よし! 効いてる! イケるぞ!」
にわかにオレたちの間に、希望の光が降り注いだ気がした。
●
十数分ほど前にオレたちに降り注いだ希望の光。
それは、完全に消え失せていた。
疲労困憊。
タロスとガーゴイルの体はボロボロに欠け、みんなも傷を負って、もはや満身創痍。
オレも、もうシンバルを打つ手すら上がらない。
元となる体力が違いすぎた。
いくら壁や床に叩きつけたとしても、そこで与えられるダメージは微々たるもので、すぐにオレたちの体力のほうが尽きてしまった。
そこからは、もう防戦一方。
奇跡的に九死に一生を得ながら、どうにかこの階層の入り口まで戻ってきたはいいけど……。
「はぁ……はぁ……頼むっ! この先にいる、みんなのことだけは見逃してくれ!!」
「グラララぁ……グララをここまで馬鹿にしたお前らをグララは絶対に許さんグラァ……」
「そんな……! 頼む! あいつらは、ただ巻き込まれただけなんだ! どうか、見逃してやってくれ!」
そう言って、オレは『 で ぐ ち 』と書かれた扉に目をやる。
笑気ガスのトラップの仕組まれた扉。
下の階ではトラップに引っかかって死にかけたオレたちだったが、さすがにこの階の扉はスルーできた。
でも、このもぐら野郎は、これが初見なはずだ。
いや、どうか初見であってくれ!
これがもう正真正銘、オレたちの最後の武器だ。
これでスカったら、もう終わり。
頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼むっ!
そこのドアノブを回してくれ、回してくれ、回してくれ!
祈るような気持ちで扉を見つめる。
「グラ? この先にいるグラ? ふんふん、そういえばお前たちの中にメデューサがいたグラよね? あれなら、お土産にちょうどいいかもグラ。よし、じゃあ、早速この扉を開けてメデューサを追いかけ……」
ごくり……。
「ないグラァ~~~~~~~~!!」
サァ~…………。
全身から血の気が引いていくのがわかる。
「グララは、地中の様子が大まかにわかるグラ! この先に通路はないグラ! よって、この扉は罠グラ! グララ、頭いいグラ~♪」
終わった……。
もう打つ手なしだ……。
シンバルを打つ力すら残ってねぇ……。
床に腰を下ろし、うなだれる。
最後まで一緒に戦ってくれたガーゴイル、キマイラ、ケルベロス、ケンタウロス、タロス、ミミック……みんな、すまねぇ……。
残された他のみんな、後はどうにか生き延びてくれ……。
オレは、ここまでだ……。
「グララララ! それじゃ、お前らは先に死んどくグラァ!」
もぐら悪魔が両手を振りかぶる。
デュラハンのヌハンを殺したあれが来る。
ギュッと目を閉じる。
「うわああああああグラ! 目が! 目があああああああグラ!」
!?
振り返ると、逃げたはずのスキュラが、いつもセレアナを照らしてたスポットライトをもぐらに向けていた。
「キュアラン……? お前、なんで……!」
「こっちです!」
階下に向かって叫ぶキュアラン。
あ? 誰かいるのか?
もしかして。
…………フィード?
フィードがここにいるのか!?
戻ってきてくれたのか!?
気がつくと口元が緩んでいた。
しかし。
階段を上って現れたのは──。
「ツヴァ……組の……?」
狼男。
そう、たしかオレたちと同世代。
マフィアのツヴァ組の一人息子。
ウェルリン・ツヴァだ。
「オラァ!!!! なんだ、テメェは!!!!!!?」
周囲を威圧する大声。
思わずオレまで身が竦む。
「あぁ!? なんだってんだよ! テメェはよぅ!!!!!!?」
バキィ!
ウェルリンがダンジョンの壁の一部をむしり取ると、それがハンマーへと形を変え、もぐら悪魔の頭に叩きつけられると粉々に砕け散った。
(なんだ……? 物の形を変えるスキルか……?)
そう思ってると「クケケッ! 自分も元々はこのダンジョンから生み出されしもの! だから逆に魔力を乗っ取って、小さいものの形を一瞬変えるくらいなら出来る! さすが自分! 本当に天才っ! 相手が悪魔だろうがなんだろうが、これでぶん殴れば殺せるぞ! さぁ、やれ! 雑魚の悪魔を、悪魔界序列一位のスーパー天才な自分の体の一部でぶっ殺せ!」とウェルリンの口の中から聞こえてきた。不思議と……聞き覚えのある感じの声だ。
「う~~~るせぇ! テメェはだぁ~ってろっ!」
ガチンッ!
そう言って歯を鳴らすと、口の中から「ウゲッ☆」と聞こえてきて静かになった。
(二重……人格……?)
再び壁の一部をむしり取ったウェルリンは、それをハンマーに変え、杭に変え、短刀に変え、メリケンサックに変え、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も殴り、刺し、斬りつけていった。
オレが引くくらい。徹底的に。
「グラぁ~……! グラぁ~……! もうやめて欲しいグラぁ~……! 降参グラ! もうお願いだから勘弁して欲しいグラ! グララの負けグラぁ~……!」
頭を抱えて丸くなったもぐら悪魔が、ついに白旗を上げた。
(なんというか……スキルとか云々以前の戦い方だな……)
ヤクザ。
相手の心を徹底的に折る戦い方。
いや、戦いですらない。
折檻。リンチ。調伏。拷問。──教育。
(これでオレと同じ年……? 信じられねぇな……。一体どう生きてきたら、こんな冷徹な暴力マシーンになれるってんだよ……)
ガシッ!
もぐら悪魔の頭を足で踏みつけるウェルリン。
「降伏? それは二度とオレ様に逆らわないってことか?」
「そ、そうグラ! あなたに逆らいませんグラ!」
「それを悪魔の契約で誓えるか?」
「あ、悪魔の契約は……グララを眷属にしてる主の許可がないと……」
「あぁん!?」
「あ、します。するグラ。誓いますグラ」
ウェルリンに凄まれたもぐら悪魔は、秒で意見を撤回し、危害を与えないことを誓った。
「よし、それじゃあ……」
「グラ。バイならグラ。はぁ……全く災難だったグラ……お土産見つけようとしただけなのに、アークデーモン様との眷属契約を上書きしちゃったグラよ……」
「おい、どこに行こうってんだ?」
「? グララは里帰りの途中グラ。おうちに帰るグラよ?」
バキッ──。
無言で壁の一部を剥がすウェルリン。
「ひぃ──! うそグラ! ここで出会ったのも何かの縁! あなた様のお役に立てることがあったら、なんでもお手伝いさせてもらうグラ!」
「よぉ~し、それじゃあ……」
ウェルリンは、オレたち全員をじろりと見回すと、とてつもなく偉そうな態度でこう言い放った。
「オレは、お前たち全員の命を助けたよな? 命の恩人だ。ただし、オレはマフィアだ。無償で人助けなんてしやしねぇ。そこで、だ。お前ら……」
ニィ……と大きな口を開くと牙をむき出しにして笑う。
「全員、オレ様の舎弟になれ」
ああ……オレは、今度はマフィアの舎弟に……。
しかも、このもぐら悪魔と一緒にだって……?
ハァ~~~………………。
もうちょっと、まだ、頑張って他のみんなを守ってやらなきゃな……。
マフィアの手先なんて、ろくなもんじゃないだろうし。
と思ってると、さらにウェルリンは、こう続けた。
「舎弟の仕事は唯一つ、フィード・オファリングを見つけることだ」
ん? フィード? なんでこいつが?
「で、見つけたら絶対にオレに報告しろ。そしたら、オレがその場に行って──」
行って?
「フィード・オファリングを────」
フィード・オファリングを?
「ぶっ殺す!!!!!!!!」
ブルッ……!
その声に込められた、あまりの憎悪、怨嗟、情動に思わず身震いする。
フィードを……殺すだって?
こりゃあ……。
オレら、とんでもない奴の舎弟にされちまったんじゃね~か……?
【タイムリミット 二日十九時間四十四分】
【現在の生存人数 三十三人】




