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第31話 殺させない

「た、ただいまの勝負……勝者をフィード・オファリングと認める……」


 オガラの脈を取った大悪魔が、弱々しい声で告げる。


 爆発するような怒声がオーガ一族から浴びせられる。


「嘘ダ! ふざけるナっ!」

「イカサマだッ!」

「なニか卑怯なこトをしたんダっ! 人間ガっ!」

「オガラは我々一族の誇リ! 死ぬワけがなイ!!」


 学校の窓ガラスが割れるのではないかというほどにビリビリと響く声。

 とてもじゃないが、もはや決闘どころではない。


(ハァ……やっぱそうなるよね)


 面倒。

 それ以外になんの感情も湧かない。


 殺し、殺され合う決闘。

 いくら油断してたとはいえ、やられる方が悪い。

 弱肉強食が魔界の(ルール)だろ?

 じゃ、生き残ったオレの方が強かったってことだね。

 はい、じゃあこの件は、それで終わり。

 魔界のルールだとそうだろ?


 でも、見下してた人間にやられたとあっては怒りが収まらないらしい。

 人間で例えるなら、ウサギをイジメて遊んでたら逆に殺されて「そんなはずじゃなかった!」みたいな?

 こういうのってなんて言うんだっけ?

 ああ、そうだ、逆ギレだ。


「ご家族の方、下がって!」


 オーガたちは大悪魔の声など聞こうともせずに、ズンズンと校庭の中に進んでくる。


(あ~、これもしかして、もう皆殺しにしなくちゃいけない感じなのか……? リサとルゥは──)


 二人を確認する。

 皆とは離れた場所に、不安そうな様子で二人きりでいる。

 よし、これならどうか巻き込まずに戦えそうだ。

 いざとなったらワイバーンの「高速飛行」を奪って、二人を抱えて逃げよう。


 そう思っていると。



 ブワァサ……。



 屋上から舞い降りてきたワイバーンが、オーガたちの行く手を(さえぎ)った。



『貴様たちは決闘を受け入れたのではなかったのか?』



 揺らぎのある声。

 その巨体と不思議に揺らぐ声に、さしものオーガたちも気圧(けお)される。


「ウッ……。で、でも何か、この人間ガ卑怯なことやっタのは間違いなイ……。あの、砂に隠れテ……」



『砂を巻き上げ、目をくらませて倒した。それが卑怯だと?』



「そ、そうダ……! 正々堂々勝負しなイかラ……!」



『では、魔物と人間が一対一で決闘するのは卑怯ではないのか? 見たところ、人間は武器すら持っていないように見えるが? お前たちは鉄の拳まで嵌めていたのに、相手は丸腰の人間。これが卑怯ではないと?』



「ウっ……。ク、くそっ……。人間、もシ……次、終わっテ生き残ってたラ、覚悟しロよ……」


 いくら脳筋種族のオーガといえども、さすがにワイバーンに歯向かうほど愚かではないらしい。

 恨めしそうな目をこちらに向けながら、オーガ達は引き下がっていった。


「……」


 ワイバーンは、なにか言いたげにオレを見ると、再び屋上へと戻っていった。


(警戒、されたな)


 オガラを刺した魔鋭刀も、すぐにブレスレットに戻した。

 砂煙で隠していたから、オレが何をしたかは誰もはっきり分からなかったはずだ。

 次のミノタウロスを倒すまでは、少しでも手札は隠しておきたい。

 せめて、大悪魔の「条件によってはオレを解放する」の「条件」が、なにか判明するまでは。


 その条件次第で、オレの取る行動は変わってくる。

 殺すか、逃げるか。

 殺して、逃げるか。


 大悪魔の洗脳効果も解けかけている可能性がある。

 さっさと次を終わらせたい。


「大悪魔シス・メザリア、次の決闘を」


 さっきまでの上機嫌はどこへやら、(いぶ)しげな表情を崩さず大悪魔は「ああ」と短く答えた。


「では、次の決闘を始める。ミノル、前へ」


 学校に持ってきていたものよりも一回り大きな斧を手に、オレの前に進み出るミノル。

 斧の凝った装飾が気になるので鑑定してみる。



 【魔風斧(ミノタウロス専用装備)】



 魔風斧……注意しておいたほうがよさそうだ。


「フ、フレー……」


「オイっ! まだ人間を応援するのかてめえらっ! お前らの応援のせいでオガラが死んだのかもしれねぇんだぞ!?」


 オレに声援を送ろうとしてた女子~ズが、オークに怒鳴りつけられて気まずそうに押し黙る。


 うん、いいよ、気にしない。

 元々、オレが勝つはずないと思ってたから全力で応援できてたんだもんね?

 わかるよ、気持ちいいもんね?

 弱者を見下して、自分は安全地帯から応援するのって。

 ま、言っても()()は、もう安全地帯じゃないんだけど……。


「グルルル……」


 ミノルの様子もおかしい。

 牛人間らしからぬうめき声を上げながら、口からボタボタと涎を垂らし、目も血走っている。

 すかさず鑑定をかける。



 【ミノタウロス 8695 状態:暴走(バーサク)



 ──暴走(バーサク)!?

 しかも魔力が以前とは桁違いだ。



「それでは、これより……」


「グルルルルァ────ッッ!」


 大悪魔の開始宣言を無視してミノタウロスが一気に突っ込んでくる。


 やばい! 出遅れたっ!


「グルァッ!」


 くっ──!



 【軌道予測(プレディクション)

 【身体強化(フィジカル・バースト)



 ミノタウロスの「未来の軌道」。



 □ 斧を縦に立てての横薙ぎ

 □ 旋回

 □ 斧を横に寝かせての横薙ぎ

 □ 旋回

 □ 投斧



 斧の面での打撃!

 そういうのもあるのか──!


 ブォンっ!


 強化した身体能力まかせで、とっさに後ろに飛ぶ。


(あっぶねぇ……!)


 オレは、どうにか初撃を(かわ)す。

 

(次は、このまま回転して、もう一度横薙ぎが来るはず。よし、そこで相手の間合いに呼び込んで──)


 ブオッッッ!


「うわっ!」


 フワッ──。


 無重力。

 いや、突如発生した竜巻に巻き取られ、オレの体は宙に浮かんでいた。


 魔風斧……!

 竜巻を起こせる魔武具ってことか……!

 しまった! これじゃ、次の横薙ぎがかわせな……!


 二撃目。

 初撃の勢いそのままに体を一回転させたミノタウロスの斬撃が迫る。


 ッ!

 使うしかない……!

 たとえオレの能力がバレたとしても、スキルを──!



 【石化(ストーン・ノート)



 効果:目にしたもの、目に触れたもの、涙に触れたものを任意、または強制的に石化する。



 ビキビキビキッ──!


 オレの体に当たる直前の斧の刃を石に変えると、その刃先をなんとかパリィ・スケイルで受け止める。


 ドッ……!


「うっ……!」


 ぐにぃ……と衝撃を吸収したパリィ・スケイルが。


 ボンッ! と反発し、オレはかなりの距離をふっ飛ばされた。


「ぐっ、がっ……!」


 斧によるダメージはなかったが、反発で飛ばされたダメージは受けてしまう。

 しかも、これだけの反発。

 きっと、かなりの衝撃(インパクト)だったんだろう。

 どうにか刃先を石に変えたおかげで一命を取り留めたが、あれを何度も食らったらヤバい。

 パリィ・スケイルが、壊れずにあと何回あの衝撃を防げるかもわからない。


 しかも、まだオレの「予測」したミノタウロスの攻撃は残ってる。


「グルルルルォオオオオオ!」


 三撃目。

 斧の投擲。


 オレの背後には、魔物──クラスメイトたちがいる。

 オレがこの斧を(かわ)せば、後ろにいる魔物たちは死ぬ。


 ──一石二鳥じゃないか。


 ここで死んでくれたら、オレが手を下す手間が省ける。

 ここから逃げおおせやすくなる。

 よし、(かわ)せ。

 (かわ)すんだ。


 しかし。


 オレのとった行動は──。



 【軌道予測(プレディクション)

 【石化(ストーン・ノート)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【斧旋風(アックス・ストーム)

 


 まずは、斧の軌道を予測して。



 ビキビキビキッ──!



 次に、今後は斧全体を石にする。

 それから、ブレスレット状の魔鋭刀を槌へと変化させると、ジャンプ一閃。



 バキィッ──!



 石の斧に上から叩きつけ、(くだ)いた。


 バラバラバラッ──。


 粉々になった石の破片が、あたりに飛び散る。


「フィード……? お前、今の……?」

「え、なに? 今、もしかしてフィードがいなかったら私達死んでたんじゃない?」

「おい、ミノル! なにしてんだよ! 殺すつもりか!」

「え、っていうか、今フィード何した? 斧が石化……したよな?」

「あと、あのハンマー……ブレスレットが変化した……?」


 思わず──守ってしまった。


 スキルと魔鋭刀のこともバレた。


 が、悔いはない。


 こいつらはオレが殺すんだ。

 オレが、ちゃんと責任を持って。

 そして、そのツケを大悪魔と王国に取らせる。


 だからミノル。


 こいつらを、お前に殺させるわけにはいかない。

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