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第160話 新戦力

「はっ!? クモノス様!? なに言ってるんですか!? こいつ、私達を殺そうとしたクズ人間ですよ!? なんかキモいし! そしてキモいし! それからキモいじゃないですか!?」


 イシュタムの夜の路地裏。

 ザリエルの声が響く。


「お前らだって俺を殺しに来てただろうが」


 改めて思い返す。


 ザリエルは俺を食って天使の階級を上げようとしていた。

 グローバは俺を仇だと勘違いして襲いかかってきた。

 ホラムは次代の大悪魔を生み出すために俺を殺そうとしてた。

 全員がそれぞれの理由で俺に襲いかかってきた。


 そんな奴らミフネの一体どこが違う?

 っていうか俺、ほんとに周りに敵しかいないな……。

 まぁいい、どうせ全員肉盾として使い捨てる連中だ。

 逆に都合がいいとも言える。


「で、どうだミフネ? ちなみに断ったら殺すが」


「キヒ……神殺し……。天使を従えてるところを見るとハッタリではなさそうだが……」


「ガチだ。ちなみにすでにゼウスを殺すために大軍へ呼びかけてる。早いもん勝ちだ」


 大軍。

 パルが魔界から連れてくるはずだ。

 きっと。多分。

 まぁハッタリ。


「やぶさかではない……頂上神を殺す機会、やぶさかではないなぁ。俺なら殺せるだろうなぁ、頂上神だろうがなんだろうが。ただなぁ……あんた、何者だ? スキルを複数使う──それも尋常じゃない威力ときてる。もしあんたが悪魔で、ここで死んだほうがマシだったみたいな契約を結ばされる可能性もなきにしもあらずだなぁ」


「悪魔? ハッ、それならもう()()


 ザリエルの胸の間からホラムがぴょこんと顔を出す。


「キヒ……。天使に悪魔にゴブリン……? こりゃ、とんだ桃太郎一味だ。でもって頂上神を殺す? あんたなぁ……取れよ、その仮面」


「だから気に入らねぇつってんだろ、その倒置法」


 俺は雲仮面を外し、クモノス(といってもザリエルしか真に受けてないのだが)からフィードへと戻る。


「──ッ!? アベル!?」


「肉体はな。中身は違う」


「キヒ……? 興味湧いてきたなぁ……話、聞かせてもらおうかなぁ……」


「長いぞ。落ちついた場所へ案内しろ」


「キヒ……。その強引さ……あんた、()()()()の人だなぁ。いいなぁ……気に入ったなぁ」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「クモノス様ぁ~! ここ、辛気臭いです! チンケな胡散臭いインチキ邪神の匂いがします!」


「寺とかいうんだろ、ここ? ずいぶんうらびれてるが」


 草ボーボーの荒れ地。

 木造。床も割れて板が跳ね上がったりしてる。危ない。

 鳥居とかいう謎の門をくぐった先にあった謎の鐘。その隣に立っているボロボロの仏殿でミフネに簡単に事情を説明。


「キヒヒ……乗った! その話、乗った乗ったノッたのった乗ったなぁぁぁ」


「マジでキモいなお前」


「キヒヒ……お褒めいただき光栄至極」


「褒めてねぇし。そういうところもマジキモいし。っていうか話に乗ったんなら教えろ、お前のスキル『人斬吸血マーダー・ザン・ブラッド』と職業特性『一閃(フラッシュ)』、それに剣術について」


 ボロボロの仏殿に薄汚い着物であぐらをかくミフネの姿が妙にハマってる。


「俺のスキルまで見抜くとはやっぱ普通じゃないなぁ。さすがはアベルの肉体を奪ったうえに地獄と天界から舞い戻ってきた人なだけあるなぁ」


「答えろっつってるだろ、時間は有限なんだ殺すぞ」


「キヒ……死んで地獄に行ったらまた母親を殺せるなぁ」


「クモノス様! 変態です! こいつ変態です! 今すぐ叩き斬りましょう!」


「お前を生んだゼウスだってクソ変態じゃねぇか」


「ゼウス様は一応創造神だからいいんです!」


 パチッ。指を鳴らすと。


「むぐぅ~!」


 気は強いが空気の読めるゴブリンのグローバが馬鹿のザリエルの口を塞ぐ。

 うむ、なんか息が合ってきたな。


「キヒヒ……まず『人斬吸血マーダー・ザン・ブラッド』は、その名の通り傷口から血を吸い続けるスキル。かすり傷ならちょっとずつ。大きな傷なら一気に吸い取る。『一閃(フラッシュ)』は居合い切りの一種だなぁ」


「途中で剣がぐにゃってなったのは?」


「別にあれは特別なことじゃないなぁ。自分と相手の重心の取り方。あとは刀の重さや空気の乾き方とかで刀や体はいくらでも変形するなぁ」


「剣術?」


「幽心流剣術」


「へぇ、イケそう? 頂上神」


「攻撃の気配を直前まで完全に消せれば」


「例えばゼウスの横を通り過ぎる瞬間まで小鬼(インプ)のホラムがお前に憑依(ポ・ゼッション)して体を動かしてる、とか」


憑依(ポ・ゼッション)? キヒ……悪くない。ただ、反撃されたら私は死ぬなぁ」


「お前が死んだ場合、スキルはどうなる?」


「死んだことないからなぁ。わからんなぁ」


「ふむ……なら死なないように守ってやる。安心しろ」


 嘘だけど。


「ん~、あんた攻めるのは得意だけど守るのは下手そうだなぁ」


「何言ってんだ、大船に乗ったつもりでいろ」


「キヒ……まぁいい。どうせもう死んでた命。好きに散らせてもらうかなぁ」


「ダメですよ! せっかく長寿の種族に生まれてきたんだから命を大切にしてください!」


 グローバ。世間ずれしたお嬢様ゴブリンが世間ずれしたことを言う。


「キヒヒ、まさかゴブリンに励まされる日が来るとか思ってもおらず。キヒヒヒヒ……」


「で、ミフネ。俺の正体を話したわけだが、問題は?」


「ないなぁ」


「よし、じゃあ──」


 オレはミフネとガッチリと握手を交わす。


「新戦力加入だ。この『アベル絶対殺す団』に。初の人間が」


「キヒヒ……その名前、ダサいなぁ……」


 ゲシっ。足払い。

 俺の持ってる手を中心にミフネがくるっと半回転し、埃を巻き上げ気味の悪いニヤけ面が床に激突する。


 俺が自分でダサいと思うのはいいが、人が言うのは許さん。

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