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第11話 ぷりぷりサキュバス

 諸々の悩みは一気に解決した。

 というのも、サキュバスの持っている【魅了(エンチャント)】を奪うことに、あっさりと成功したからだ。



 【十二日目 朝】



「フィードに服を着せないのは可哀想ですわ!」


 というセイレーンの言葉に端を発し、この日からオレは服を着せられるようになった。

 しかもセイレーンは、すでに手作りの服を用意してきていた。

 魔界に生えたパイルの木。そこになる「パイル生地」で作られた、もこもこふわふわのパジャマみたいな服。

 うん、完全におままごとのお人形扱いされてるな、オレ。


 で、服を汚されたくないので体も綺麗にしましょうってことで、オレはトイレに行くことを許された。

 そこで体を洗えということらしい。

 オレよりも服の価値のほうが高い場所、魔界。


 大悪魔の許可も取ったらしく、手に持った鍵で檻を開けると、オレの首には鉄の首輪が()められた。

 檻が開いた瞬間、一瞬脱出を試みようかとも思った。

 が、まだ手持ちのスキルも少ない。

 状況を考えると諦めざるを得なかった。

 いや、焦るな。

 きっとチャンスは巡ってくるはずだ。

 事実、こうやってだんだん監禁がゆるくなってきてるじゃないか。

 そう思って、ぐっと耐え忍ぶ。


 で、女子トイレに連れて行かれて、女子~ズたちにゴシゴシ体を洗われたってわけだ。


「キャ~! 臭いですわ! 汚いですわぁ!」

「人間ってマジで臭いッスね!」

「あ、あの……体洗わなかったら誰でも臭くなると思う……」

「ヒヒィ~ン!」

「チロチロッ……」


 上半身馬のケルピーの鳴き声から、下半身ヘビのラミアの舌チロチロまで、オレを見下しながら大盛りあがりする女子~ズ。正直、屈辱だ。

 ゴーゴンだけはオレをかばおうとしてるけど、どうせ偽善だろう。いけ好かない奴だ。

 ローパーが、たくさんの触手でゴシゴシとオレの体の垢を器用に洗い落としていく。


 と、同時にトイレも解禁された。

 授業中の合間ごとに女子~ズが一人ずつ交代制で連れて行ってくれる。


(え? これ逃げられるじゃん)


 と思ったが、ちょっと待て。

 一時間ごとに一対一でトイレに行けるということは……。

 つまり、いつでも逃げ出せるってことだ。

 そうか。

 なら、無理に今逃げる必要もない。

 せっかくだから、もっと必要なスキルを奪ってから逃げることにしよう。


 特に。


 【死の予告(インスタント・デス)

 【魅了(エンチャント)

 【石化(ストーン・ノート)

 【博識(エルダイト)


 この四つは、とても強力で希少だ。

 逃げ出すなら、最低限これを奪ってからにしたい。


 そして、そのうちの一つ。

魅了(エンチャント)】を奪う機会が、すぐに訪れた。



 【十二日目 昼】



 三限目が終わった後のトイレ時間。

 オレの引率役は、幸いにもサキュバスだった。

 背中に生えたちっちゃい羽根でパタパタと飛びながら、オレの首に繋がれた鎖を引っ張っていく。


「ほらぁ、さっさと歩きなさいよ、間抜け人間? あんよもちゃんと出来ないのぉ? んん~? ばぶばぶ~?」


 世の中には赤ちゃんプレイ、というものがあるらしい。

 男の精を吸う魔物であるサキュバスは、常日頃からいちいち喋りが「そういった」プレイっぽくなることが多い。

 とはいえ、このサキュバスも、まだ子供。

 なので、結構ズレたことを言ってることも多い。

 今にしても、そうだ。


 しかし、目の前に浮かぶ、このぷりぷりしたおケツ。

 黒のハイレグボンテージからはみ出したピンクの肌が文字通り「ぷりっ、ぷりっ」と擬音を発しながら揺れているようだ。

 もし、オレがこんな状況じゃなくて、このサキュバスのことも知らなかったら、男として反応してしまっていたかもしれない。

 でも、今のオレはそんなことに気を()らしてる暇はないし、なにより、こいつをヤリマンだと知ってしまっている。


 ヤリマンが悪いわけじゃない。

 好きにすればいい。

 人間だって、魔物だって。

 ただ──。


 クラスメイトがヤリマンって、なんかイヤじゃね?


 厳密には、オレは生徒じゃないからクラスメイトじゃない。

 でも、ここ毎日違うオスをとっかえひっかえしてる話を聞かされてたオレとしては、ちょっと、いや、かなり引いてた。


「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 周りに誰もいないことを確認してサキュバスに声をかける。

 もちろん【狡猾(モア・カニング)】は、すでに発動させてある。


「あら? 珍しいじゃない、クソ人間が話かけてくるなんて? なに? えっちなことでもされたいの? 私を見て興奮しちゃったぁ?」


「いや、そういうわけじゃないけど、ちょっとキミを欲しいなと思ってね」


「きゃははっ! なにぃ~、それ! 私が欲しいのぉ~!? キザな告白ウケるんだけどっ! どうせ、ヤリモクなんでしょ? オッケ~、オッケ~! 今まではセレアナに気を遣って手を出せなかったんだけど、二人でトイレだなんて、これってヤッちゃっていいってことだもんね! どうする? この後、トイレでヤッちゃう?」


「ああ、ヤッちゃうのも悪くないね。ただし──」


 オレの左目に青い炎が宿る。


「ヤるのは──貴様からスキルを奪い取ること、だがな」



吸収眼アブソプション・アイズ



 ドッ

 クン。



 全身が脈打つ。



 サキュバスから【魅了(エンチャント)】を奪い取れたことを本能で理解する。



「……は? え? スキル……? あんた、何言って──」


 すぐさま、オレは奪ったばかりのスキルを発動する。



 【魅了(エンチャント)



「は? なに……を……」


 サキュバスの目がとろんと溶ける。

 全身の力が抜け、だらりと宙に浮いたまま放心している。


 スキル効果:魅了された相手は心を奪われ、スキル主の指示や要求に従うようになる。


 なるほど、どうやら思ってたより融通の効きそうなスキルのようだ。

 しかも異性限定じゃないってのがいいね。


 しかし、予想はしてたけど【魅了(エンチャント)】が、サキュバスの存在の根幹に関わるスキルじゃなくてよかった。

 サキュバスは【吸精】をする魔物だ。

 なので【魅了(エンチャント)】は、副次的なスキルってことなのだろう。

 インビジブル・ストーカーみたいに、根幹となるスキルを奪っちゃって、また人間になられたらたまったもんじゃない。


 よし。

 さっそくサキュバスの精神を支配してみるとするか。

 オレは、昨日からずっと考えていた命令内容を伝える。



「お前は、スキル【魅了(エンチャント)】を奪われたことを忘れる」



「はい……私は、スキル【魅了(エンチャント)】を奪われたことを忘れます……」


「そして、お前は今後、この命令を忘れそうになった時にオレの命令を思い出し、再びスキル【魅了(エンチャント)】を奪われたことを忘れる」


「はい……私は今後、この命令を忘れそうになった時に命令を思い出して、再びスキル【魅了(エンチャント)】を奪われたことを忘れます……」


 よし、成功!

 最初から、こうすればよかったんだ。


 スキルを奪われたことを忘れさせる。

 これで心配事は一挙解決。

 なんて簡単なことなんだ。

 楽勝じゃないか。


 ハハッ、これで今後のスキル簒奪(さんだつ)は。



 ──もう、成功したも同然だ。



 【十二日目 夜】


 オレはリサに狼男を呼び出させると、二人に【魅了(エンチャント)】をかけて昨夜のインビジブル・ストーカーのことを忘れさせた。


 ああ、気分がいい。


 心配事が一気に解決した。


 こんな気分は、仲間たちから追放された、あの日以来初めてだ。


 あとは吸収のストックが貯まるのを待って、さっさと脱出しよう。


 そう思っていた。


 そう、この時は。



────────────────────


 アベル(フィード・オファリング)

 現在所持スキル数 12

 吸収ストック数 2


 【鑑定眼(アプレイザル・アイズ)

 【吸収眼アブソプション・アイズ

 【狡猾(モア・カニング)

 【偏食(ピッキー・イート)

 【邪悪(ユーベル・ズロ)

 【死の悲鳴(デス・スクリーム)

 【暗殺(アサシン)

 【軌道予測(プレディクション)

 【斧旋風(アックス・ストーム)

 【身体強化(フィジカル・バースト)

 【透明(メデューズ)

 【魅了(エンチャント)


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