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2話 初めての進化

「あ....い......」


なぜか、声帯ができたみたいだ。そんなことは、今はどうでもいい。


ひらけた湖のそばで、反射する自分自身を眺める。


自分の姿を見ると、彼女の髪の色と恐怖に染まった彼女が火に焼かれてしまうあの瞬間を思い出す。


僕は、勢いよく水の中へと飛び込む。


周りの水を吸収すると血が混ざっていた体が透き通っていく。

プカプカと水の上を浮かびながら、空に浮かぶ月を見つめていた。


中からなにか小さな魚が僕のことを見ていた。ずっと固まって動かない僕に徐々に近づいてきている。


今度は、仲良くなれるかもしれない。


ゆっくりと近づいてきて、そっと体をつついてきた。く、くすぐったいじゃないかっ


そう思って、魚のことを見ようとすると、まるでそこには初めからいなかったかのようになにもいなかった。


あぁ....夢.....か.....


スライムは、気づかない彼の体の中で浮かぶ小さな物体がいることに...






気づけば、少女が死んでしまったあの日から、数日が経過していた。


友達は....未だにできてない。僕を見た瞬間に、みんな攻撃をしてくるんだ。

そうして、その姿を見る度に何度も...彼女の姿をフラッシュバツクさせていた。


なにか....疲れてしまって、またあの日の草原へとやってきていた。


草花を風が通りすぎ、揺れていく。

あの日と同じ、赤い色のシルエットが僕の上空を飛翔して、ゆっくりと降りてくる。


あの時僕を見ていなかった目が今度は、僕自信を睨みつけてくる。



「貴様は、あの時なにを思った?」



赤い竜が、僕に話しかけてくる。

なんで、僕の前に現れたんだ。なにも感じることはなかったが、少しだけ苛立ちのようなものを感じていた。



「答えることはないか」



答えられないの間違いだよ。喋れたとしても、なにかを喋りたいとは思えないけど...

それ以前に僕に話しかける必要があっただろうか?


僕は、スライムだ。スライムに話かけることほど、無意味な時間はないだろう。



「人間は、な。罪を犯す生き物だ。お前は、辛く悲しい思いをしているかもしれないけどな。あそこに、住むものたちは、私の住処から財宝を奪おうとした。その報いだ」


いきなり説教くさくしゃべってくる。知らないよ。そんなこと...どうでもいいからどこかへ行ってくれないか?


「........し....ら....」



「知らないか?クックックッそうだな。そういうであろうな。だがな。お前は、ずっと、恋焦がれている。あの少女に」



「.........」



「我には、見えるのだ。全てが全てがな」


恋?僕が?なにを言っているんだ?確かに、ずっと彼女のことを思い出し続けている。けど...それがなんだっていうんだ。


しかも、見える?見えるって言ったか?もし、全てが見えるんだったら....なぜ、お前はあの少女を、殺す必要があったんだ。



「あ....っ.....ち...に、い....」



「なに、ほんの戯れだ。お前はずっと追っているようだがなあの子どもは、生き返らない。絶対にな。絶対に...」



苛立ちが、限界に達してウチから込み上げるものを吐き出した。


ピュッと、僅かな火の粉が、ドラゴンの姿をかき消す。

驚きの表情を浮かべたドラゴンは、つまらないものでも見たかのように飛び去って行った。




二度と関わりたくないと、これほど思ったこともない。






ただひたすらにむしゃくしゃしていた。

僕は、森の中へと再び入り、木に体を当てていた。

火を使ったあとのボディは、焦がすような温度が気持ちを浮かしていた。


あぁ、嫌いだ。


この熱は、大っ嫌いだ。まるで、あの竜を思い出させる。

ひんやりと冷たい木が僕の体を、冷たく冷やしてくれる。




少しだけそうしてると、木の穴の中から静かにスライムを狙う、蛇が出てきた。

スモールバジリスク 下級の魔物で、初心者が倒す魔物だ。

その牙には、毒があり...刺したものを麻痺させて、噛み殺す。



ツプッと、なにかが僕の体に刺さったような気がした。

また...か、また、僕を狙う魔物の仕業か....


見てみると...蛇のような魔物が、僕の体を刺していた。紫色の液体が、僕の体を流れてくる。


僕は別にこの程度じゃ死なないから、いつもの様に放っておくことにしようとしたのだが....今日は、一つ発見があった。


体の中に入ってくる毒を、見つめていると僕は彼女のことを思い出すような気がした。あの、紫色の心が落ちていくような瞳を。僕の体の中で溶けていく毒を眺め続けていた。


僕は....あの子に恋をしているのかもしれない。



「なぁ....お前、僕を癒してくれよ」




噛み付いた部分から、一気にヤツを取り込む。

が、その時には既に、紫の液体は溶けて消えてしまっていた。



体が痺れる。けど、足りない。これっぽっちじゃ足りない。


欲しい。


なんでもいい。あの子を思い出させてくれるなにかが...





そうして、気づけば僕はスモールバジリスクを狩っていた。


ありったけの力を込めて、木を殴りつける。怒りで我を失ったスモールバジリスクが噛み付いてくる。僕は、あえて噛まれにいきそれ自体を取り込む。

その毒が、刺さった時にだけ...夢が見える。あの子の夢が...



噛まれて、食って...噛まれて、食って...





........





これは、毒だ。ただの毒だ。彼女の瞳なんかじゃない。

始めの頃は、思い出せたものが、回数を重ねるごとになにも見えなくなっていった。



「あれ....僕、なにをしていたんだっけ...」



僕は、目的を見失ってしまっていた。

そして、噛まれ続けた僕の体は、気づけば紫色に変わっていた。空色のあの綺麗な色ではない....紫の毒々しい色に



なにも...なくなってしまった。

彼女を思い出せるものが...



「戻りたい.....あの色に....」



青い体に....戻りたい....



『レベル20のスライムは、レベル1のポイズンスライムへと進化した』







僕は、森から出ることにした。そうして、ふと空を見上げた。今日は、生憎の曇り空だ。


空は、透き通っていたはずだ。雲の上には、僕の体と同じ透き通る青い色の世界が広がっていたような気がする。


僕の体は、もう戻らないかもしれないけど...もしかしたら、空は思い出させてくれるかもしれない。



届くことのない。空へと....





この森をずっと突き進んで行った先に、大きな山があった。

あの山なら、きっと。そんな淡い期待を背に、草むらをかけていく。途中群れで動いていた狼が襲ってきたが体が痺れる毒霧を吐いて動かさせなくする。


殺すことすらバカバカしい。


そんな動かなくなった狼をこれ幸いとばかりに、周りの魔物たちが齧り付く。一角うさぎ、緑の宝石を頭に入れた鹿、毛を逆立てて赤い瞳を光らせる猿。

狼を貪る音が、とても不快に感じる。



「うるさいっ!!」



ポンッという音とともに、狼の体を蝕んでいたはずの毒が燃え上がる。

小さな魔物たちが、声にならない悲鳴をあげて、バタバタと倒れていく。



キィイイイ、ギュイイ、キャアアア



燃え上がる炎。腕を飛ばして、助けを求め....木に体当たりをして必死に火を消そうとする。真っ赤な背景を真っ黒ならシルエットが(うごめ)く。




『ポイズンスライムは、上位種 ポイズンスライム(赤)へと進化した。』



尽きない怒りが、スライムの体を焦がす。尽きない恋が、スライムの体を焦がす。


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