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英雄の子として生まれたのなら  作者: 鷲炭 颯
第一章 
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004 情報収集

 書庫への入室許可を得たアウグストは早速、めぼしい情報が載っている本を探すことにした。まず手に取ったのは建国神話の本だ。


 『太陽神ソルに神の力を内包した武器、【神器】と【力を】授かりし六人の英雄。

 ――剣の神器を授かるは剣の英雄、その剣は闇を切り伏せこの世界に再び光を取り戻す。

 ――盾の神器を授かるは盾の英雄、その盾は迫りくる闇から光の届く全てのモノを守護する。

 ――槍の神器を授かるは槍の英雄、その槍は光を遮る闇雲を貫きこの世界に再び光を取り戻す。

 ――杖の神器を授かるは魔の英雄、その杖はこの世界より光潰えし時再び世界に明かりを灯す。

 ――弓の神器を授かるは弓の英雄、その弓は闇の軍勢を打払い再び世界に光を取り戻す。

 ――心の神器を授かるは戦の英雄、その心は気高く闇に染まることはない。その者から発せられる光の声は生けるもの全ての心に光を宿す。』


 (よくわからん。最後の戦の英雄はただの応援的なことか?大層ありがたいお言葉なんだろうな)


 カレンが傍にいたので訊いてみることにした。


 「ねえ、カレンさん。戦の英雄は何をするの?」


 「アウグスト様、申し訳ありませんが私は建国神話や英雄様の事についてはあまり詳しくありません。」


 「そっかー」


 「ルドルフ様に訊いてみては?あの方は現盾の英雄です。戦の英雄についても何かご存知かもしれません」


 「今度きいてみるよ」


 (英雄とか言われてるけど実はそんなにパッとしないんじゃないか?建国神話に出るくらい凄い英雄なら帝国民全員にどんな事ができるかくらい知っててもらえよ)


 そんな事を考えながらアウグストは本を読み進めていく。


 『――によって闇を打払うことに成功する。その後神の代理人であった導きの聖女によりソルファン帝国が築かれた。その後、帝国で六人の英雄は公爵位を賜る。


 帝国の礎を築きし六名の英雄公爵の名をここに記す。


 ――剣の英雄は「グラディウス公爵家」

 ――盾の英雄は「クレイペウス公爵家」

 ――槍の英雄は「ランシーア公爵家」

 ――魔の英雄は「マグリーア公爵家」

 ――弓の英雄は「アーカム公爵家」

 ――戦の英雄は「エクウェス公爵家」――――


 ――――太陽神ソルより授かりし【神器】と【力】はその血筋にのみ力をもたらすであろう。』


 (英雄の末裔って言われてる理由がようやく分かったな。結構すごかったりするのか?俺の家系って。俺もその【神器】とか【力】とか使えたりするのだろうか?まあいいか。)


 深く考えることをやめ、アウグストは次の本を手に取る。『クレイペウス公爵家』と書かれた本だ。これは公爵家の家系図と過去の当主達の功績が載った本である。


 重厚な表紙をめくると最初に出てきたのは始まりの英雄であり初代クレイペウス公爵の「アウグスト・フォン・クレイペウス」だ。功績がありすぎて一ページでは収まらず、四ページにもわたりずらりと功績が書き並べられていた。


 「この人と同じ名前なのは結構重圧だね」


 苦笑いを浮かべながらそう言うアウグストにカレンは励ましの言葉をかけた。


 「確かに重圧でしょうがルドルフ様は何も同じように成れと言うわけで名を付けたわけではありません。彼のように強く立派な人になって欲しいと願い名を付けたのだと思います」


 「ははは。そうなれるように頑張るよ」


 パラパラとページをめくっていくと新しく書き込まれたであろう名前を見つける。インクが他のと明らかに比べて濃いのだ。


 そこに書かれていたのはギリアム・フォン・クレイペウス。先代公爵でありアウグストの祖父の名だった。数々の武功を上げており功績はページ一杯に書き込まれていた。そして最後に死因が書かれていた。


 戦死。遺体未発見。神器をはめた左腕のみ発見。


 戦争は勝利して終結。だがそこでギリアムは亡くなっていたのだ。アウグストは薄々感じていたこの世界の危険性を改めて感じる。


 戦争が身近にある世界。命が軽く失われる世界。


 (マジかよ!戦争あんのかよ!しかも爺ちゃん死んだの俺が生まれた年かよ!)


 アウグストは恐怖していた。『戦争は恐ろしいもの』前世ではその程度の認識だったのだ。前世でも戦争は起こっていたがそれは遠い過去であったり、遠い国で起きていた事だ。実際に自分が戦うのとでは話が違う。


 今後自分がどうするべきかを考えた。


 (……どうせ逃げられないし死なないように強く賢くなろう。それが出来る血筋も立場もあるしな)


 この結論に至る。幸いまだ若い、時間はある。強ければ戦争ではまず死なないだろう。そう考えたアウグストは次に古びた巻物を手にする。


 これはいずれ治めることになる公爵領の地図だ。そこには大雑把ながら地図であると分かる程度のものが描かれていた。


 地図によるとクレイペウス公爵領はソルファン帝国の北東の辺境にあるらしい。この屋敷は領地の南部にある領都「クレイペウス」にある。領地の南部には山脈と伯爵領、子爵領があり、西には辺境伯領、東部には海、北部は敵国と魔領に面している。


 この魔領という場所は文字通り魔物が数多く生息する領域のことである。漂う瘴気に太陽の光が届かぬ深い森、その中で生息する強大な魔物たち。それらが人間の侵入を阻み続けている。そして増えすぎた魔物は魔領を広げようと外に出てくる。


 それらからソルファン帝国を守るために建国神話通りクレイペウス公爵家、盾の英雄がこの地を治めることになったのだ。その魔領に面した土地を魔領戦線と呼び、五年に一度訪れる魔物のスタンピードに備えて巨大な壁を作り要塞を構えている。そしてそこをクレイペウス公爵領の領兵が警備にあたっている。


 (帝国全体の問題だろこれ。一つの貴族に押し付けるなよ。皆で仲良く戦おうよ)


 そうはいかないのが英雄公爵である。公爵家には様々な特権があり、それを享受するにはそれぞれに与えられた義務を果たさなければならないのだ。


 盾の英雄に与えられた義務は魔領からの帝国の守護である。実際のところ、壁の守護自体は公爵家が行っているが食料や兵の武具などは周辺の貴族から支援されている。


 とはいえ血を流すのは公爵家である。アウグストは戦いから逃れられないのであった。

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