大魔王の頭部に生えている伝説の剣
これは「なろうラジオ大賞2」応募用作品です。
いせかーい、異世界の事でした。
ある所に、世界の半分を統治した大魔王が住んでおりました。
大魔王は、玉座に座りながら言いました。
「生えとるなー」
「生えとりますなー」
玉座の隣で大魔王につられるように答えるのは、大魔王の腹心として仕える『銀侍』でした。
ふたりが『生えている』と言ったのは、大魔王の頭頂部から刺さっている様に突き出している、伝説の剣の事でした。
銀侍は、大魔王の頭部をまじまじと見ながら話を続けます。
「大魔王様、何でそんな頭になっちゃったんですか?」
「うむ。母から聞いた話だと、なんでも儂が生まれた時にはこういう頭になっとったそうだ」
大魔王は、伝説の剣の生え際を、手で擦りながら説明します。
「あ、危ないっすよ、大魔王様。うっかり手ぇでも怪我したら、伝説の剣の力で死んでしまいます」
「ははは……心配せずとも良い。いくら伝説の剣といえども、選ばれた勇者が手にしなければ、力は発揮できんからな」
頭頂部を擦っていた手を肘掛けに置いて、大魔王は言葉を続けます。
「まあ万が一、儂の手が傷つき、死ぬような事があれば、それは、儂が勇者だったという事だな」
「いや、実は大魔王が勇者でしたーって、どんなシュールな冗談ですか」
大魔王の冗談に、笑みを浮かべながら突っ込みを入れる銀侍。
「ところで、その伝説の剣って、やっぱり選ばれた勇者じゃないと抜けないんですかね?」
「……おそらくな」
大魔王は、今まで玉座の間まで攻め込んで来た数多の人間族に、自分の頭頂部を差し出し、伝説の剣を引き抜かせようと試みました。
ですが、いくら人間族が伝説の剣を引き抜こうとしても、大魔王の首根っこが伸びる音と、大魔王の「いたい痛いイタイ」という声が聞こえるだけで、その度に銀侍はついうっかり人間族の首根っこをはねてきました。
「……今度、魔王城にいる部下達に頭の剣を抜かせてみようかな」
「それで剣が抜けたら、それはそれでシュールな冗談ですね」
ため息まじりの大魔王の冗談に、銀侍は優しい口調で返した……その時でした。
「そういえば……」
大魔王が銀侍の方を振り向き、ふと、こんな事を呟きます。
「銀侍。お前は、儂のそばに一番長くいながら、この伝説の剣に一度も触れた事が無いな」
「なに言ってんですか、大魔王様。私が勇者な訳、無いじゃないですか」
「そうか? ふふふ……」
「そうですよぉ。ははは♪」
玉座の間には、少しのあいだ、大魔王と銀侍の笑い声が木霊しました。
……おしまい。