お嬢様の偽物ですが、代わりに嫁いだら真実の愛を見つけました。戻って欲しいと言われても彼は私を溺愛しています。
「この子私に似てるわね」
その貴族のお嬢様はにやりと笑った。
孤児だった私はそうしてお嬢様の影武者として拾われた。
普段は眼鏡にかつらを被ってメイドとしてお嬢様に付き添う。
そして、お嬢様が行きたくないお茶会やダンスパーティーに代わりに出席した。
ある日お嬢様は言った。
「……あなた私の代わりに公爵家へ行ってきて頂戴」
まるでそこまでお使いに行ってこいと言うのと同じ調子で、お嬢様は私に死んでこいと言ったのだ。
かの公爵は妻に来る女性を過去に何人も行方不明にしている。
女性の家族が王に訴えれば、女性の家族が逆に処刑された。
私は外見を整えると、縛り上げられてそのまま馬車に乗せられ、公爵の私室に放り込まれた。
私は公爵がどんな恐ろしい男かと、がくがくと震えるしかなかった。
そして、ドアが開いて男が入ってきた。
私はひぃぃっと悲鳴をあげて後ずさる。
「私は偽物なのです!許して下さい!」
入ってきた人物は体が大きくて威圧感はあれど、優しい目をしていた。
彼は私の縄をほどき、そして私に言ったのだ。
「しばらくこのまま、かの令嬢として振る舞ってもらえないだろうか?」
私は公爵さまとお嬢様としてあちこちのパーティーに出席した。
最初は仲の良い婚約者の振りだったが、いつしか私は彼を好きになり、彼も私を愛していると言ってくれた。
このまま幸せが続くのかと思ったある日、私は馬車ごと拐われたのだ。
そして、お嬢様は私と服を交換して言ったのだ。
「偽物はもういいわ。公爵がまともな男だったなら、さっさと自分から戻って来なさいよ!」
私は絶望した。
そうだ。
彼はお嬢様の婚約者なのだ。
あまりに幸せで……全て夢だったのだ。
ばーんと扉が開いて彼と護衛の兵が入ってきた。
お嬢様は怯えたように言った。
「何かあったのですか?」
そして彼の側へと……。
彼はお嬢様の手をとる。
「いやぁぁ!」
私は思わず叫んだ。
だがしかし、彼はお嬢様を拘束して兵に渡した。
そしてメイド服を着て、眼鏡を掛けて、かつらを被って惨めに床に座り込んでいる私を優しく抱き上げた。
「やっと仕事が終わりました。帰りましょう愛しい人。あの令嬢の家は反体制派だったので彼女も処刑されるでしょう」
「私は偽物です」
彼は首を振った。
「身分が気になるなら、どこかの家の養女になるといい。私は君を離すつもりはない」